14.部長


「だからなんでっ…」
 声を荒げる彼を、強く抱きしめた。戸惑うように背に腕を廻した彼は、僕の胸で震えている。
「ごめん。でも、行かなきゃ」
 体を放し、彼の頬を伝う涙を指で掬う。
「俺じゃ、駄目なの?」
「……ごめん」
「許さないよ?」
「許さなくていいよ」
 見上げる彼に、笑顔を見せる。彼は僅かに首を横に振った。拭ったはずの涙が、また彼の頬を伝い落ちる。
「ごめん。何もしてあげられなくて」
「謝らないで。謝られたくない。今までのこと、間違いだって思いたくないから」
 嗚咽混じりの声。涙は、一筋しか流れて無いけど。それは多分、彼の強がり。
「間違いじゃ、ないんだよね?」
 不安に揺れる眼。僕は彼の頭をそっと撫でると、黙って頷いた。よかった、と彼が呟く。
「もう、行かなきゃ…」
 彼の後ろ、壁に掛けられた時計を見ながら、今度は僕が呟く。彼は俯いていた。
 ごめんね。声には出さずに言う。
 聴こえる筈も無いのに。彼は、顔を上げると、首を横に振った。
「次にアンタに逢うときまでに」
 意志のある眼で、僕を見つめる。
「俺、立派な部長になってますから。アンタが後悔するくらいに。あのヒトよりも数倍立派な部長に」
 涙の所為、だけではないと思う。そう言い切る彼の眼は、今までに無いほど輝いている。
「そうだね。次に逢える時を楽しみにしてるよ」
 そんな時は、多分、一生来ない。きっと、彼もそれを解かってる。
「後で泣きついてきたって、俺は知りませんからね」
 生意気な、いつもの笑みを見せながら彼は行った。何も言わず、僕は彼にいつもの笑みで返すと、背を向けて歩き出した。





庭球作家に20題で、惜しくも載せられなかった話。
短いですね。まあ、お題用に書いたヤツだから。
えーっと。切なくてゴメンナサイ。

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