反抗?


 今日が終了式で、部活も暫くないってーから、荷物をまとめて夕方に帰省してみた。家族には言ってない急な帰省だったから、こんなことはないだろうと思ってたのに。
「……じゃあ、一緒にお風呂入ろうか」
「いいんすか?」
「だって、そのままじゃ気持ち悪いでしょう?どうせ家族は皆で払ってるんだし」
 大袈裟なほど大きな声が止んだかと思うと、今度はムカつくほど甘ったるい兄貴の声が薄い壁越しに聞こえてきた。
 家に帰ったら誰も居なく、することもねぇから部屋で寝ていたとはいえ。兄貴のことだ。オレが居ることには気づいてるはずなのに。
 こんなことなら、眠らずに兄貴が帰ってくるまで起きてりゃ良かった。お蔭で、オレの存在を明かすタイミングを外し、事が終わるまで全部の音を聴かされる羽目になった。それも、明かりも点けられない真っ暗な部屋で。
 そして今も、相変わらずオレは居ないということになってる。
 いや、だから。兄貴はオレが居ることに気づいてるんだろ?
「どうせなら、泊まってくかい?」
 なっ。
「……いや、今日は遠慮しとくっス。明日、改めて泊まりに来てもいいっスか?」
 …………。
「いいよ。……お湯、張って来るね」
 兄貴の声を最後に、会話がなくなった。暫くして、部屋の扉の開く音と、階段を下りる音が聞こえてきた。
「…………」
 …………。
「……ホントは泊まりたかったんだけどな。仕方ないっか。このまま誰かさんを一日中部屋に閉じ込めて置くわけにもいかないし」
 ……オレの、ことか?
「俺が居たら、やっぱ出てきづらいだろうし。それにどうせ明日からは俺が周助を独り占めするわけだし。今晩くらいは、二人きりで過ごさせてあげないと可哀相だし」
「てめっ……」
 壁に向かって声を上げようとした時。トントンと階段を上がってくる足音が聞こえた。慌てて、口を噤む。
 いや、別に、ここで兄貴にオレの存在を明かした方が…というか、二人してオレが居ることに気づいてるんだから、出てっちゃってもいいんじゃねぇか?
 でも、下手に出てって、またあんな場面を見せ付けられたくはねぇし…。
「どうしたの、リョーマ。なんか、顔、ニヤけてるけど?」
「何でもないっスよ。それより、お風呂入りません?」
「もう?だって、今お湯入れてきたばかりだよ?」
「二人で入るんだから、そんなにお湯たまってなくても平気っスよ。それに、どうせすぐには湯船に浸かんないんでしょ?」
「……まぁ、そうだけど」
「じゃあ、行きましょ」
「……そうだね」
 溜息混じりに、だけど満更嫌そうでもない声で兄貴は言うと、再びドアの開く音と二人分の階段を下りる音がした。
 くそっ。なんでオレがこんなビクビクしなきゃなんねぇんだよ。ビクビクしなきゃなんねぇのは、本当なら兄貴たちのほうだろ?男同士なんて、日本社会ではまだメジャーじゃねぇっつーんだよ。
 …………。
 と、兎に角。このままじゃ腹の虫がおさまらねぇ。何とか、少しでもいいから、兄貴たちを困らせたい。
「…………よし」
 我ながら、しょうもない反抗だとは思ったが。余り大きなものだと仕返しもされねぇから。オレは小さく握りこぶしを作ると、物音を立てないようにひっそりと階段を降りた。
 勿論、目指すは兄貴たちのいる風呂場だ。
「はっ…ぁ」
 早速、越前の声が聞こえて来る。もう湯は充分にたまったのか、その音は聞こえてこなかった。かわりに越前の声に混ざって、ピチャ、と水の跳ねる音が聞こえてくる。
「ねぇ。何だか、もう一回くらいしたくなっちゃった」
「っ。駄目っすよ。そんなことしたら、俺帰れなくっ、ぁ」
 くそっ。ギリ、と歯軋りをする。けど、そのまま突っ立ってるわけにも行かず。オレは握っていた拳を開くと、脱衣所の扉にその手をかけた。手が入るくらいの隙間だけ、扉を横に引く。
 電気を消してしまえば、きっとパニクってイチャつくどころじゃねぇだろうし。そこまで行かなかったとしても、多少この雰囲気は壊せるだろう。
 手を伸ばし、スイッチに触れると、オレは音を立てないように気をつけながら切った。
「っ何!?停電?」
「……かもね」
 慌てる越前に、分かっているのか、兄貴はのんびりとした口調で言った。クスクスと楽しげな笑い声が聞こえて来る。
「でも、停電にしては可笑しいっスよ?」
「停電だよ」
「でも、外の明かりがついて……って。どこ触ってんスか!」
「いやね。折角こんな素敵な機会を作ってくれたんだから。利用しない手はないかな、と思ってさ」
 何を、言ってるんだ?兄貴は。
「ほら、リョーマ。こんな状態で出ようとしたらこけるよ。僕が妨害しているし、それに足元は停電で真っ暗なんだから」
「だからって…やっ、だって。俺、今日は帰るつもりで…っん」
 もしかして、こんななか、ヤッてんのか?二人は。
「ほら。真っ暗だと、視覚が使えない分、他の感覚が敏感になるでしょう。この水音も、なんかいやらしい感じだよね」
「っ、あ」
 ……ヤってんだ。こいつら。
 聞こえて来る越前の嬌声と水音に、オレはまたも脱力したようにその場にへたり込んだ。
 結局オレは、二人の手助けをしちまったってか。どう足掻いても、あの二人の隙間を一センチも作ることは出来ねぇってか。
 くそっ。





365題『227.停電』のコメントから。
同じく365題『224.生きろ』の続きということで。
どうでも良いけど、第三者にエロを書かせるのは難しいよ。いや、そう言うやりかたにしたアタシが悪いんだけれども。
ちょっと無理矢理だったかなぁ、という気もしないくはないのですが。
とりあえず、裕太が不倖せなので、満足です(←鬼!)
そしてこれは、不二リョとしておいてしまっていいのだろうか?と悩む所です。し、周裕か?
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送