「ねぇ、起きて」
「……ん」
 肩を揺すられ、俺は目を覚ました。眩しさに目を細めると、そこに影が入り、太陽の光を遮ってくれた。
「こんな所で寝てると、風邪ひくよ?」
 開けた視界。そこに映ったのは、綺麗な顔をして微笑んでいるヒトだった。
「それと君、新入生でしょう。入学式、もう始まってるけどいいの?」
「マジ?……まぁ、いいか」
「入学式をサボるなんて。君、なかなか勇気あるね」
 欠伸をして再び木にもたれかかった俺にそのヒトは微笑うと、隣に座った。油断してたから。俺は太陽の光を思い切り目に浴びてしまい、慌てて顔を背けた。その拍子に俺は隣に座ったヒトの肩に額をぶつけてしまった。隣のヒトが、クスクスと楽しそうに微笑う。少しムッとしたから、俺は痛む額をそのままに、そのヒトを睨みつけた。けど、それをかわすように微笑むと、何、と目で訊いてきた。何も質問を持っていなかったけど、そこで黙ったら負けのような気がして。俺は何か訊くことはないかと探した。逆光だったし、寝ぼけてて気付かなかったけど。そのヒトは、俺と同じ制服を着ていた。また笑顔で交わされないようにと、息を吸い込む。
「アンタ、誰?口振りからして先輩っぽいけど。授業は?つぅか、何で学ランなんて着てんの?男装趣味?」
「先輩だって分かってるなら、もう少し丁寧な言葉遣いして欲しいな。折角、寝ている君を起こしてあげたのに」
「あっ…」
 言われて、俺は恥ずかしさに俯いた。そうだ。このヒトは親切にも俺を起こしてくれたんだった。なのに、俺…。
「スミマセン」
 俯いたまま、呟くようにして謝る。きっとさっきまでの笑顔を壊して俺を厳しい眼で見ているのだろうと思ったけど。
「まぁ、いいよ。寝起きでまだ頭がちゃんと働いてなかったってことにしておいてあげる」
 優しい声で言うと、俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。恐る恐る顔を上げると、そのヒトは相変わらず綺麗に微笑っていた。
「えーっと。じゃあ、君の質問に答えようかな。僕は不二周助。3年。性別は男」
「え?」
「うん。残念だけど、これは男装趣味じゃないんだ。まぁ、この顔だから時々間違えられることもあるけどね。でも、声を聞いても勘違いしてたのは、多分、君が初めてかな。と言っても、声変わりしてからの話だけどね」
「スミマセン、俺。何かすっげー失礼なことばっかり」
「大丈夫。慣れてるから。……って、こういうのに慣れるのもどうだろうって感じだけどね」
 また俯きそうになる俺に、ええと、不二先輩、は、微笑いながら言った。男だとは分かったけど。その笑顔はやっぱり綺麗だと思った。
「今ので、目、覚めたかな?」
「あ。っス」
「それは良かった」
 意味もなく顔が赤くなるから。俺はやっぱり俯いた。隣で、クスクスと微笑い声が聞こえる。
「そうそう。もうひとつ、かな。答えてないの。授業はね、サボった。こんな良い天気の日に教室にいるなんて勿体無くてさ。実はここ、僕のお気に入りの場所なんだ。暖かくて、でも心地いい風は吹いて。ああ、でもだからって、昼寝するにはまだ寒いかな。夏なら丁度いい感じだけど。今は風邪ひくだけだよ」
 言い終えると、先輩は立ち上がって伸びをした。そのまま、桜の花びらを浴びるようにして宙を仰ぐ。その横顔に、俺はまた意味もなく顔が赤くなってしまった。慌てて俯こうとした時、丁度先輩と目が合って。俺はタイミングを逃してしまった。
「他に質問は?」
「………見かけによらず、不良なんスね」
「まぁね。でも、不思議なことに優等生で通ってるんだ。理由は、まぁ、暫くすれば嫌でも分かると思うけどね」
「先生の誰かとデキてるとか?」
 言いながら、俺はまたなんて失礼なことを言ってしまったのだろうと思った。思ったけど、もう口をついて出てしまったことはしょうがない。それにこのヒトは、何を言っても怒らなさそうだし。
「あはは。まさか。そんなんじゃないよ」
 案の定というか、何て言うか。先輩は怒るどころか声を出して笑った。その後で、俺の前に立ち、目線を合わせるようにして屈んだ。
「まぁ、それは追々。じゃあ、僕からも1つ、質問させて良いかな?」
「……いいっスけど。なんスか?」
「君の名前。まだ聞いて無いよね」
「あ。そう、っスね」
 頷いて、先輩の肩を少し押しやると、俺は立ち上がった。座って挨拶するのも、何か失礼な気がしたし。
「俺は、越前リョーマっス」
「……越前リョーマ、くんか。よろしく」
 何か確かめる、というか、刻み付けるかのように俺の名前を呟くと、先輩は微笑って俺に手を差し伸べてきた。
「っス」
 俺もその手をとり、先輩と握手を交わす。瞬間、悪寒のようなものがして、俺は思わず手を離してしまった。
「ん?」
「あ、いや。何でも…」
 流石にこれは、上手い言い訳をしないと気を悪くするだろうと思った。けど、その時タイミング良く、チャイムが鳴った。助かった。余り好きじゃないチャイムの音だけど、今回ばかりは好きになりそうだった。
「えっと。じゃあ、俺、もう行くっス。流石に、欠席にするわけにはいかないっスから」
 先輩の顔を見ること無く一礼すると、俺は半ば逃げるようにして校舎に向かって駆け出した。その時後ろで、さっきまでの優しいものとは違う、不気味な微笑い声が聞こえたような気がした。





後日、不二が青学の魔王であると知るリョーマ。
えーっと、【カプリングなりきり50の質問 不二リョでGO!】で、不二リョの出会いについてちょっと書いたんだけど、うっかりその設定を物語にするのを忘れてまして。今回、やっとです。これを読んでから、なりきり50質を読んでくれればまた違うかなって。
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