frog


「越前くん、越前くん」
 俺が部室に入ると、それまで菊丸先輩と雑談していたのを止め、不二先輩は俺の方に向かってきた。後ろに回してる両手と、その笑顔が怪しいと思ったけど。ここで無視したら、後が怖いってこと分かってっから。
「なんスか?」
 警戒しながら、とりあえず返事をしてみる。すると、先輩は嬉しそうに両手を俺の目の前に差しだ…。
「うわっ」
「あはは。吃驚した?」
 飛びついてきたものに驚いて尻餅をついた俺に、菊丸先輩と二人で微笑うと、先輩は右手を掲げた。それと一緒に、俺の顔に乗っかってたものが宙に浮く。
「ホントだ。おチビって、そんなん苦手なんだ。でも不二が持ってんのって、オモチャだぜ?」
「い、っきなり飛びつかれたら、本物でも何でも、誰だってビビるでしょ。普通」
「にしても、尻餅をつくのは、驚きすぎなんじゃない?」
 満足そうな顔で言うと、先輩は俺に手を差し伸べてきた。何かあるのかと少し疑ったけど、今度は何もなく。俺は先輩の手をとって、立ち上がった。
「ま、そんな感じで。英二はもう満足したでしょ?」
「うん。じゃ、俺は大石んとこ行こっかなっと。あ、ここ立ち入り禁止にしといてやっから。感謝よろしく」
「はいはい。ありがと」
「じゃ。おチビ、あんまり無理すんなよ」
 埃を落としてくれたわけじゃないだろう、菊丸先輩は俺の尻を思いっきり叩くと、鼻歌交じりに部室を後にした。
「今のって、セクハラだよね」
 空いてる窓から見える菊丸先輩の姿を、少しだけ険しい表情で眺めながら、先輩は言った。その姿に、俺は少しだけ呆れた表情になる。
「それじゃ、アンタは毎日セクハラっスね」
「何言ってるの。これは愛のスキンシップだよ」
 俺の言葉に視線を向けると、先輩は殆んど圧し掛かるように俺に抱きついてきた。ぐっと体重をかけられ、半歩だけ後ろによろける。
「ちょっ、危ないっスから」
「おっと、ごめんごめん。二度も尻餅つきたくないよね」
「誰のせいだと思ってんスか。誰の」
 体を離した先輩を睨みつけて言うけど、先輩に俺の思いなんて通じるはずもなく。
「ん。僕の所為」
 楽しそうにそう言って認めると、俺の唇に持っていたオモチャを押し当ててきた。その姿形に思わず寒気が走る。
「あれ?玩具って分かっても駄目?可笑しいなぁ。そんなにリアルじゃないんだけど」
 後退った俺を見てなにやらブツブツと言うと、先輩はベンチに座った。玩具もベンチに座らせ、右手を強く握る。
「うわっ」
「大丈夫だって。噛みついたりはしないから」
「んなの分かってますよ」
「リョーマもやってみる?これ、案外はまるよ」
「いや、いいっス」
「いいから」
 断る俺に、先輩は立ち上がると強引に俺を自分の座っていた場所に座らせた。
「これを強く握ると…」
「っ」
「ほら、跳んだ。面白いでしょ?」
 俺に緑色の物体を持たせ、俺の手の上から包み込むようにして先輩はそれを何度か握り締めて見せた。そのたびに、ベンチの上にいる玩具が飛び跳ねる。
「カルピンに見せたら、喜ぶかな」
 俺から手を離し、玩具を挟んでベンチに座ると、途端に動かなくなったそれを突付きながら言った。玩具と俺を交互に見るから、仕方なく、一度だけ跳ねさせてやる。
「ペットは飼い主に似るっていうから、喜ばないんじゃないっスかね。……返すっス」
「ううん。いいんだ、返さなくて」
「は?」
「それ。リョーマにあげるために買ったんだから。それに、僕のはね、もう買って家にあるんだ」
 返そうと差し出した手を押し戻すと、あと英二も持ってる、と菊丸先輩のロッカーからはみ出している玩具を指差して言った。
 その、嫌がらせとしか思えない行動に、溜息を吐く。
「要らないっスよ、こんなもん。つぅか、何で俺がこれ苦手だって知ってんのに渡すわけ?わけ分かんないっスよ」
「わけ分かんなくなんかないよ。リョーマがこれが嫌いだって言うから。まずは玩具から慣れてもらおうと思ってさ」
「だから、何で慣れる必要があるんすか」
「知らないの?日本には梅雨という季節があってね。どこから湧いて来るのかは知らないけど、結構出るんだよね。まぁ、大半は車やら自転車やらに轢かれてぺしゃんこになってるんだけど」
「うげ…」
「だから、早く平気にならないと。こんなことが原因で登校拒否とか、格好悪いよ?」
「…………」
「はい。感謝は?」
 それがうじゃうじゃ出てきた様を想像して青ざめてる俺に、先輩は少しだけ愉しそうに言うと、俺の顔を覗き込んできた。ベンチで大人しくしている玩具を手にとり、動かない俺の唇にまた押し当てようとしてくる。
「あ、りがとうございますっ」
 それが触れる前に慌てて言うと、先輩は玩具を下ろし、代わりに自分の唇を押し当てた。





駄菓子屋で売ってる蛙の玩具の話。空気送るとゴムでできた蛙の足がビヨンて伸びて跳ねる奴。うわぁ、説明が下手。
タイトルで蛙と言っているので、本文中には一度も蛙と書いてません。多分。書いてないはず。
アレね、意外にはまるよ。楽しいよ。うちの猫はじゃれなかったけどね(笑)
リョーマは爬虫類と両生類が苦手だったらいいと思います。
カルピンが蛇とかにじゃれてるのを見て、ウゲェってなるの。だから海堂も苦手(笑)
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