夢中U


「そうやって乗ってて、怖くない?」
「だって、横乗りでくっついてたら、気持ち悪いですよ」
「何、今更なこと言ってんの」
「いや、僕たちがじゃなくて。見ているヒトたちが、の話ですよ」
 クスクスと笑いながら、先輩の背中に体重をかける。ぐ、と頭でその肩を押すと、大きな溜息を吐かれた。
「それこそ、アンタが言えた台詞じゃないと思うけど」
「何でです?」
「……所構わずくっついてくるくせに」
 はぁ、ともう一度大きな溜息を吐くと、先輩は自転車を止めた。
「どうかしました?」
「交代。悪ぃけど、俺、疲れてんの」
「えーっ。僕が漕ぐんですか?」
「嫌なら歩いて帰れば?俺は先帰るから」
 自転車が倒れないように気を付けながら降りると、先輩は振り返る僕に少し不機嫌そうな視線をやった。
 ああ、今日のこと怒ってるんだ。なんて。まぁ、分かりきったことだけど。
 今日のこと。部長に、グラウンド30周走らされたこと。原因は、僕。僕が、先輩の言う通り、所構わず、先輩にくっついてたから。でも。
「大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「不二は大丈夫だっただろ」
「いや…先輩も、さ」
 そう。先輩の言う通り、僕は走らされなかった。それは、まぁ、部長が僕のことを気に入ってるから。噂では、本気で好きなんだとかなんだとか。まさか。あの堅物な部長に限って。
「何考えてんの?」
「……手塚部長って、本当に僕のこと好きなのかなって」
「じゃなかったら、あの真面目が服着て歩いてるような奴が、俺にだけ厳しくて、不二にだけ甘いとか。そんなことするはずないし」
「ふぅん」
 確かに。誰にでも平等に接するようなヒトだもんな。手塚部長って。まぁ、部長の気持ちなんて、越前先輩のいる今の僕にはどうでもいいんだけど。
 なんて。色々考えてると、先輩はさっきよりも不機嫌そうな顔で僕を見ていた。
 ああ、僕が部長のことを考えてるのが気に食わないんだな、なんて。簡単に読める。
 案外顔に出るんだよね、先輩は。周囲からは、部長に並ぶポーカーフェイスだとかなんだとかって言われてるみたいだけど。それは単に興味が無いだけで。興味のあるもの、例えば、猫とか見ると、すぐに顔が緩むし。
 って。僕は猫と同格?まさか。そんな。
「先輩」
「……何?」
「キスしてください」
「は?」
「そうしたらもう部長のことは考えませんし、自転車も漕ぎます。だから、キスしてください」
 自転車から降り、先輩の前に立つ。サドルを支えていた手をとり指を絡めると、僕は先輩を見上げた。
「何、わけの分かんないこと言ってんの」
「だって先輩、今僕が部長のこと考えてたの、気に食わないって思ったじゃないですか」
「俺が?まさか」
「だから、僕の頭の中を先輩のことしか考えられないように、スイッチ切り替えてくれません?」
「だから。何で俺が、不二が手塚のこと考えてたからって気にしなきゃなんっ………って。おい」
「だって、先輩がなかなかしてくれないから。待ちきれなくて。……じゃあ、後ろ乗ってください。あ、サドル直さなきゃ」
 夕陽のせいじゃなく顔を赤くした先輩に、僕は微笑うと、繋いでいた手を解いた。サドルを下げるために、スタンドを立てる。
「……周助」
「先輩。今はまだ不二って………」
「お返し。サドル合わせてる時間勿体無いから。後ろ乗って」
 呼ばれて振り返った僕に、唇を離した先輩は相変わらず赤い顔で言うと、荷台を叩いた。乗せる気満々だったから、ちょっと残念な気がしたけど。でもそれ以上に嬉しかったから、僕は素直にその指示に従った。
 また、先輩の背中に背中を合わせて寄りかかる。
「先輩も案外、所構わず、なヒトなんですね」
 片手でバランスをとりながら、もう片手でさっきの感触を確かめるように唇に触れると、僕は言った。うるさい、と恥ずかしそうに呟く先輩の声が、振動になって伝わってくる。
「つぅか、アンタの真似をしてみただけだし」
「ふぅん。じゃあ僕も、今度先輩の真似してみよっかな」
「……何を?」
「色々ですよ。色々」
 ふふ、と微笑い頭をごりごりと押し付ける。すると、先輩は、まぁいいか、と溜息混じりに呟いた。自転車のスピードを、少しだけ上げる。
「……ま、好きにすれば?」
「はい。じゃあ、お言葉に甘えて、好きにさせてもらいます。今夜」
「……意味、違うし」
「あはははは」
 声を上げて笑い出した僕に、先輩はまた、まぁいいか、と溜息混じりに呟くと、今度はスピードを落とし始めた。いつの間にか僕たちは、先輩の家の前まで来ていた。





あれ?不二視点でのエロを書くっていってたっけ?
もし言ってたらごめんなさい。エロ、書けませんでした(笑)
何かアレですね、不二視点だと、リョマが先輩で不二が後輩って感じがしませんね。
むぅ。やっぱり不二は後輩でも不二なんだなぁ、と実感(笑)。
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