「奪い取るっス。アンタから奪い取ります。青学の柱ってヤツを」 手塚を指差し、彼は言った。けど。その目は手塚じゃなく、その奥にいた僕を見ていた。 幾ら鈍感な手塚でも、ここまであからさまにされれば気づくだろう。案の定、手塚は余裕とも取れる笑みを見せるとその場を後にした。 「駄目だよ、越前」 手塚のプレイに未だ興奮冷めやらぬ様子でいる彼に、言う。 「何がっスか?」 「幾ら目の前に賞品が見えているからって。敵から目をそらしてはいけないよ。少しでも油断すると……」 「部長に喰われる?」 「一瞬でね」 本気の手塚のオーラに対抗できるだけのものを、彼はまだ身につけていない。 負けん気の強さだけは手塚と同等、いや、自分のことしか考えられないだけ、手塚よりも上かもしれない。手塚は、何よりも部の勝利を望んでいるから。けど。それだけじゃ手塚には勝てない。 「大丈夫っスよ。試合の時はアンタのことなんか頭に残んないくらい集中しますから」 「そんなはっきり言われると、それはそれで淋しいんだけどね」 笑いながら、彼の頭を撫でる。その拍子に帽子がズレてしまったけれど、彼はそれを直そうとせず更に目深に被ると、ウソツキ、と呟いた。 その言葉に気づかないフリをしようと思っていたけど。思わず、吹き出してしまう。 「何笑ってんスか」 「別に」 「…………」 「別に、今日の越前は一段と可愛いな、なんて思っただけだよ」 可愛い、なんて言われて。多分普通の男子だったら嬉しくはないだろうし、彼もそんな普通の男子であるはずなんだけど。何故か僕の言葉だけは特別だってこと。僕は知ってる。 「うるさいっスよ」 夕日のせいじゃなく顔が朱に染まる。折角目深に被った帽子も、耳まで朱くなってたら意味がない。 「奪ってごらんよ、僕を。手塚から」 多分それは簡単なことだろう。だって手塚はきっと、そうまでして僕を傍に置いておこうとはしないはずだから。 ただ、でも。手塚から僕を奪えたからといって、僕が彼のものになるかどうかは別次元の話だけれど。 「奪いますよ。勿論。その為に宣戦布告したんスから」 帽子のツバを上げ、僕を睨みつけるように見つめる。夕日で朱く揺らぐその瞳は、既にそれが実現したと錯覚させるほどの強い意志を感じさせた。 「越前……」 伸ばした手が、頬に触れる。 君を好きになれば、きっと僕は倖せになれたんだろうな。 けど、それでも。テニスに魅せられているあの人に、僕はどうしようもなく魅せられてしまうんだ。 「……不二先輩?」 見つめたままいつまでも黙っている僕に、彼は不思議そうに呼んだ。思わず、苦笑する。 「次に君がやるのは、多分跡部だ。彼に勝てないようじゃ、手塚には勝てないよ?」 頬に触れたままの手を滑らせ、彼の帽子のツバを下げる。 「大丈夫っスよ。相手が誰でもオレは勝つだけっスから」 僕の手が離れると、彼は再び帽子のツバを上げ、僕を見つめて言った。 「そっか。そうだね」 その物言いに、彼らしいと笑いながら。力強い眼差しに、いつかの手塚を重ねていた。 |
こないだアニプリの全国編を観たので。 リョーマのいう青学の柱って不二のことでしょう?とね。 |
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