BAD APPLE


「そんな風に煽っても駄目だよ。僕にはそういう気はないんだから」
 飛びつくように抱きしめて、耳元で囁いてみても。先輩はそういって笑うと、俺を簡単に地に下ろしてしまう。
「ちぇ」
 今日も、失敗。
「ほんと、越前は可愛いね」
 オレの頭を撫でながら優しく笑う先輩に、そう思うんなら、とその手をとると口に含んだ。
「試しに食べてみれば?」
「駄目。僕は年下には興味ないの。……あと、男の子にも」
 手を振り払われる。興味がない、というわりには、俺の唾液でねとつく指を自分の口に含んだ。
 年下が最初に来る辺り、やっぱりあの噂は本当なのかもんないな。部長とデキてるってやつ。
「取ってつけたようにいうんすね」
 結局タオルで手を拭っている先輩に、オレは近くにあったベンチに腰を下ろしながら言った。
「何?」
 俺の前に立ち、聞き返す。もう俺に手をとられることはされたくないのか、両腕は胸の前でしっかりと組んで。
「男が苦手って。……本当は、そっちの経験もあるんじゃないすか?例えば、部長と、とか」
「うん、そうだね」
「っ」
 驚く俺に、君が来る前の話しだけどね、と付け足すと、腕を組んだままで隣に座った。
 目を瞑って空を仰ぐ。その姿は、想い出に浸っているように見えた。
「あんな仏頂面のどこがいーんだか」
「だから、別れたんだよ。あの時は、錯覚だとか好奇心だとかそんなもので付き合ってたから」
 だから段々見えてきた互いのズレに耐え切れなくなったんだ。先輩は目を開け、でも遠くを見ると、自分に言い聞かせるように言った。
「俺の気持ちは錯覚とか好奇心じゃないっすよ」
「でも、君を受け入れたとしても、僕の方は好奇心だから」
 ギュ、と先輩の袖を掴む。先輩はそれを振りほどこうとはしなかったけど、組んだ腕は頑なに解こうとしなかった。
 俺を見るその目は優しいのに、全体からははっきりとした拒否が現れてる。
「俺は、別に。好奇心でもいいっすよ。もしかしたら、ううん、絶対。俺がいいって思うようになるから」
「諦め悪いね、君も」
「それだけ本気ってことっすよ」
 部室に残ってるのは俺達ふたり。少しの間耳を済ませて、部室周りに誰もいないのを確かめると、俺は先輩の膝に座った。勿論、向かい合うように。
「ねぇ。食わず嫌い言ってないでさ。ちょっとは試食してみてよ。答え出すのはそれからでも、別に遅くないっしょ?」
 先輩の腕を何とか解き、その唇に自分のそれを重ねる。触れたり抱きしめたりするのはよくしてたけど、こうして何かを重ねるのは初めてだった。
 アメリカに居た頃の記憶を思い出して、したことはない積極的なキスってやつを試してみる。
 先輩は最初、それに応じようとはしなかったけど。しつこい俺に、どうやら根負けしたようだった。それとも、テイスティングが上手く行った?
「ね、先輩。一度は試してみる気になった?」
 息の切れた声で訊く。けど、先輩は全く息を切らしてなくて。余裕の笑み、みたいな表情で俺を見ていた。
「俺なら。先輩を倖せにする自信があります」
「倖せ、か。そんなものは要らない。そうだな、あえて言うなら。欲しいのは……」
 スリルかな。囁くような声で言って俺の顎を掴む。
「不二せんぱ……」
 言葉を遮るように口を塞がれる。背中に優しく回される腕。
 俺は、いつの間にか与えるはずの甘い味を、この薄暗い部室で味わわされていた。




食べず嫌いな意地っ張り
眺めてないで確かめて
答え出すのはそれからでも
遅くないでしょう?How do you like...?

最近好きなミュージシャン。KASUMI(松村香澄)の曲から。
内容は大分違ってしまったけど。
誘い受けで挑発的なリョーマが書きたくて。
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