午前2時。二人しか居ない部屋。というより、この家には、今、先輩と俺の二人しかいない。恋人と呼ばれる仲なら、フツー、何かあってもおかしくないシチュエーション。なのに、先輩ときたら…。
「ん。何?越前くん」
服も着たまま。俺を正面から抱きしめるようにして、ベッドに横たわっている。
「……なんでもないっス」
先輩の笑顔に、溜息を吐くと、俺は先輩の胸に顔をうずめた。
「温かいね」
クスクスと笑みを溢すと、先輩は強く俺を抱きしめてきた。右手で、俺の頭を優しく撫でる。
…ねぇ、アンタは解かってるの?今、俺がしたい事…。
「しゅうすけ…」
顔を上げ、名前を呼んだ。何?と覗き込んでくる先輩の唇に、自分のそれを重ねる。
「…どうしたの?越前くん」
ここまで強請っても、解かんないの?それとも、焦らしてるって?
小さく溜息をついて、先輩を抱きしめる。そのまま、自分が下になるようにして身体をよじった。
「………えちぜ…」
「リョーマって呼んでよ」
言って、口付けて見せる。先輩は黙ってそれを受け入れていたけど、俺が唇を離すと同時に身体まで離してしまった。呆然とする俺を余所に、ベッドサイドに座ると溜息を吐いた。
「周助…どうして…?」
俺も、起き上がると、先輩に覆い被さるようにして後ろから抱きついた。
「さぁね」
思わせぶりな口調で言うと、先輩は俺の手を捕った。甲に、そっと唇を落とす。その箇所から、まるで波紋のように熱が広がっていくのを感じた。
「…おかしいよ」
焦れたように、俺は先輩の耳元に問いかけた。
「何が?」
けれど、先輩は平然とそれを返す。だから。
「周助は、俺が欲しくないの?」
出来る限りの甘い声で囁いた。少し恥ずかしかったけど、そんなこと構ってらんない。先輩は、耳にかかる吐息に、くすぐったい、と微笑うと俺の指を口に含んだ。
「……欲しいよ」
「痛っ」
少し、指を強くかまれ、声が漏れる。その声に、先輩が満足そうに微笑う。俺は指を先輩に預けたまま、空いたほうの手で強く抱きしめた。
「…じゃあ、何で。何で、抱いてくれないの?」
「何でだろうね」
言うと、先輩は俺の腕からすり抜けた。と、思ったときには既に、俺は先輩に組み敷かれるような体制を取らされていた。
「………しゅう、すけ?」
状況が呑み込めず、呆けたように俺は先輩を見つめた。俺を見下ろし、クスクスと微笑うと、先輩は俺の唇に自分のそれを重ねてきた。俺がしたのとは違う、激しく、甘い口付け…。
けど、それだけだった。
唇を離し、熱で惚けている俺に笑顔を見せると、先輩は布団に潜り、さっさと眠りへとついてしまった。
「ちぇっ。つまんねーの」
寝息をたてる先輩に、ありったけの溜息を吐いてみせる。多分、届いてないだろうけど。
急に寒さを感じて、俺は時計を見た。気がつけば、もう3時になろうとしていた。俺は再び溜息を吐くと、温もりを求めて、先輩の隣りへと潜り込んだ。
もう少しで眠りにつこうというとき。クスクスという微笑い声と共に、突然、俺は先輩に抱きしめられた。
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