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「不二先輩!」
「!?」
 背後から突然かけられた声に不二は振り返った。自分の後ろに誰かがいるのは気配で感じていたけれど、それが彼であったことに不二は驚いていた。
「…越前くん」
 名前を呼ばれると、リョーマは足早に不二に近づく。不二は足を止め、笑顔でリョーマを待つ。
「ひとりなんスか?」
 不二の前に立ち、見上げる。不二はコートから手を出すと、リョーマの頭を撫でた。
「うん。まあね」
 不二の言葉に、リョーマが微笑う。
「じゃあ、一緒に帰りません?」
 期待に満ちた眼差しに不二は苦笑した。
「……部活は?」
「昨日からテスト一週間前っスよ。あるわけ無いじゃないっすか」
 部活を口実に断られると思ったのだろう。リョーマは口を尖らせて言った。それを見た不二は溜息のようなものを吐くと、リョーマの手を捕った。
「不二、せんぱい?」
 不思議そうに見上げるリョーマに笑みで返すと、不二はリョーマの手を自分のコートのポケットへと入れる。
「手、寒いだろ?」
「………そうっスね」
 手をぎゅっと握ってやると、リョーマは顔を紅くし、頷いた。
 暫く。黙ったままで歩く。
 何か話さなければと思い、リョーマはちらちらと横目で不二を見た。けれど、不二はそんなリョーマを知ってか知らずか、ただ黙って、前だけを見つめていた。何を考えているのか。リョーマはその横顔から読み取ろうとしたが、無駄だった。口元に薄っすらと見せている笑みが、余計に頭を混乱させる。
 リョーマは喉を鳴らすと、その手をぎゅっと握り締めた。何?と不二がリョーマを見る。
「あの、確か…不二先輩って、猫、好きっすよね?」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
 やっとのことで切り出せた会話。その唐突な問いかけに、不二は少し戸惑った。が、自分を見つめるリョーマの眼が切羽詰ったものであるというのを感じて、小さく笑いを溢した。
「………うん。好きだよ。猫が一番好きだけど、動物全般、好きだな」
 優しい口調で答える不二に、リョーマは安堵の笑みを見せた。自分でもどうしてか解からないが、リョーマは不二の一挙一動にいちいち緊張していた。別に、自分の事を誰がどう思おうと構わない。そう思っていたのだが、不二だけは違った。この人にだけは嫌われたくない、と出遭ったときからずっと思っていた。
「お、俺ん家、猫、飼ってるんスけど…今度…遊びに…」
「うん。じゃあ、今度、お邪魔させてもらおうかな。そうだな…来週なんかどう?帰り早いし」
「え?あ…っス。」
 誘いに乗ってくれるとは思っていなかったのに、具体的なところまで話が進み、リョーマは呆気にとられた。頷いた後で、重大なことに気づく。
「あ。でも、来週はテスト期間中…」
「僕は大丈夫だけど。じゃあ、テスト最終日にする?それとも、僕が勉強を教えてあげようか?」
「……え?」
「それじゃあ、不服かい?」
「そんなことないっス。是非、お願いします」
 慌てて頷くリョーマに、不二はクスクスと笑い声を上げた。
「可愛いね、君って。猫みたいだ」
 可愛いと言われ、普通なら苛立ちを覚えるはずだが、不二は特別だった。リョーマは怒りとは別の感情で顔を紅くした。何とかそれを振り払おうと、咳払いをひとつする。
「そ、そういえば。不二先輩の趣味って、写真なんすよね?」
「今日はどうしたんだい?随分唐突な話ばかりだけど…」
「……すみません」
 呟くと、リョーマはうな垂れた。それを見た不二はコートの中のリョーマの手を、強く握り締めた。
「まあ、たまにはこういうのも悪くないよね。…うん。写真撮るの、好きだよ」
「………何を、撮るんですか?やっぱり、動物とか?」
 上目づかいに恐る恐る問いかける。不二は微笑うと、小さく頷いた。
「うん。動物も撮るけど。植物とか自然の風景なんかも撮るよ」
 少しだけ、嬉しそうに不二は言った。その言葉に欠けている単語を見つけたリョーマは、また、問う。
「…人、は。撮らないんスか」
 リョーマの言葉に、不二の眼が開く。けれど、それは一瞬のことで、すぐにいつもの笑顔に戻った。が、何かを考えているのか、その足は止まっている。
「……不二、先輩?」
「…………。」
「…………。」
「……嫌いなんだ。ニンゲンって生き物」
 いつもとは違う、穏やかだけれど恐ろしい声に、リョーマは言葉を失った。
「もちろん、自分を含め、だけどね」
 言うと、不二は再び歩き出した。リョーマも慌てて歩き出す。宙を見ている蒼い眼が月明かりに反射して、妖しい色を見せていた。リョーマは、何故かその横顔に胸の高鳴りを感じた。綺麗だ、と思う。そう、恐いくらいに綺麗で、儚くて…。
「でも、俺は…好き、っスよ。不二先輩の、こと」
 喉を鳴らすと、声が震えないようにリョーマは言葉を切りながら言った。不二は視線を宙からリョーマへと移す。
「ふぅん」
 大した驚きもなく呟いた不二の眼からは、さっきまでの妖しい色が消えていた。
「……驚かないんスね」
 怪訝そうに言うリョーマに、不二は微笑った。
「うん。何となく、気づいてたからね」
「なっ……」
 思ってもみなかった答え。唖然としているリョーマを見て、クスクスと微笑い声を上げると、不二はコートのポケットから手を出した。
「馬鹿だね、君は」
 繋いだ手をゆっくりとリョーマの眼の高さまで持ち上げる。不二の眼に、再び、妖しい光が宿る。
「ごめんね。でも、僕は君のこと好きじゃないんだ」
 優しい声で言うと、不二はゆっくりとリョーマの手を離した。自由になった手が、力無く滑り落ちる。
「嫌い、なんスか?俺の事…」
 微かに滲む眼で、リョーマは不二を見つめた。不二の口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「興味はあるけどね。君の強さには。けど、それだけだよ」
 いつもと同じ調子、同じように優しい声で、不二が言った。それが余計にリョーマの胸を抉る。リョーマは零れ落ちる前にと、腕で目に溜まった涙を拭った。それを見た不二がクスクスと嘲笑い声を上げる。
「ああ。気にしなくて良いよ。僕は誰に対してもそうなんだ。………言ったよね、ニンゲンが嫌いなんだって。興味はあったとしても、ね。この世の中で、唯一、僕が嫌いなもの。それがニンゲン」
「…………。」
「じゃあ。僕はここで。…寒くなってきから、早く帰ったほうが良いよ。テスト前に風邪引いたら大変だからね」
「…………。」
「越前くん。今度、猫、見せてね」
「…………。」
「じゃ。また、明日」
 黙ったまま、何も言わないリョーマにお構いなしに言うと、不二は背を向け、振り返りもせずに歩いて行った。
「………バカヤロ。」
 不二の気配が消えるころ。やっとのことで呟いたとき、リョーマの頬を生温かいものが伝い落ちた。





なんかさ。テニのゲームやってたら不二ってこんな人なんじゃないか?って思えてきちゃって。
自然をこよなく愛する不二。
そして人間を憎む不二。
結構、それでもいいかもって思えるのよね(笑)
…しかし。リョーマってこんなのばっかね。可哀相(爆死)

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