ジレンマ


「不二先輩。話があるんスけど」
 部活の帰り道、お供も無しに、珍しく彼が声をかけてきた。
「…いいよ。何?」
 彼と二人きりになるなんて滅多にないこと。少しだけ、心が弾む。
「あの…ここじゃあ、ちょっと…」
 人目を気にしているのか、彼は辺りを見回しながら言った。その行動に、彼の話の内容を感じ取る。またアイツの話か、と僕は溜息を吐いた。
「あ…。もしかして、何か用事でもありました?」
 僕の溜息が聞こえたらしく、彼はすまなそうに言ってきた。そんな顔を見せられて、僕が断れるわけ、無いのに。
 僕は、無理矢理に笑顔を作ると、首を横に振った。
「ううん。用事なんて無いよ。そうだな…ねぇ、越前くん。お腹、空いてない?」
「え。あ、ああ。ちょっと」
「マックでも行こうか。僕、今日はリッチだから奢ってあげるよ」
「ほんとっスか!?」
「本当。…じゃ、行こうか」
 少し、躊躇ったが、僕は彼の手を握ると、足早に歩き出した。僕の行動に彼は戸惑ったようだったが、辺りを見回して誰も居ないことを確認すると、僕の手を握り返した。

「……で。なんスけど。先輩、聞いてます?」
「あ。ああ。聞いてるよ。で、何の話だっけ?」
 僕の言葉に、彼はわざとらしく大きな溜息を吐いた。……やっちゃった、かな。自分の間抜けさに呆れてしまう。
「だから。プレゼント。何をあげたら喜ぶかって」
「……うーん。そうだなぁ…」
 腕を組んで考えて見せる僕に、彼は期待の眼差しを向けた。見つめられる嬉しさ半分、その先に見えているのが僕ではないことの淋しさ半分。自分の勇気の無さに苦笑した。
 勇気、か。そうだ。
「ああ。あれがいいよ」
 いって僕は指を立てた。思いついたのは、尤もなプレゼント。自分で自分の首を絞めるコトにはなるが。彼のためだと思えば、まあ、なんとか。
「どれっスか?」
 期待に満ちた眼で、僕の指と眼を交互に見つめる。僕はにやりと微笑って見せた。
「ベタだけど、リボンをつけて、君自身がプレゼントになるって」
 僕の言葉に、見る見るうちに彼の顔が赤くなった。可愛い、と思う。まあ、こんなことを言ったら、彼に機嫌を損ねられてしまうだろうけど。
「………先輩、真面目に考えてくださいよ!」
 耳まで真っ赤にして彼は言った。僕は十分真面目なんだけどな。
 彼の相談事は、手塚へのクリスマスプレゼント。付き合いだしたばかりなので、彼が何を欲しがっているのか、解からないらしい。そこで、僕に相談、というわけだ。
「でもさ。真面目な回答が欲しいんだったら、大石にでも聞けばよかったのに」
 そうすれば、僕はこんな複雑な想いを抱えずに済んだのに。
「俺、大石先輩苦手なんスよ。だから。…それに、不二先輩のほうが、部長と仲良いじゃないっスか」
「……ふーん。」
 僕は頬杖をつくと、じっと彼を見つめた。大石が苦手だから僕のところへ来たという事は、少しは僕に好意を持ってくれているらしい。それにしても、その後に続く言葉。僕がアイツと仲がいい?冗談じゃない。まあ、彼のその誤解のおかげで、今日、こうして同じ時間を過ごせているわけで。……嬉しいような、哀しいような。
「な…なんスか?」
 見つめられて、照れたのか、彼の顔は再び赤くなった。可愛い。本当なら、今すぐにでも抱きしめたい。たけど。目の前にある机が、そのまま僕と彼の距離。彼は人間として僕に好意を持ってはいても、ただ、それだけ。それ以外の眼では見てくれない。僕が望んでいるのは、それ以上の関係なのに。
「何でもないよ。そうだな。じゃあ、今度、それとなく僕が聞き出してあげるよ」
 微笑いかけると、彼は安堵の笑みを返した。こんな笑顔を見れるだけでも、僕は幸せなのかもしれないな、と思う。もし先走った事をして、この笑顔が目の前で凍りついたら…。それに比べたら、今の胸の痛みの方が、全然ましだと思う。
 巧い具合に、次の約束も取り付けることが出来たし。もう少し、このままでいよう。彼が僕の気持ちに気付くまで。僕に勇気が出るまで。この言葉は、しまっておこう。
「………好きだよ。」
 目の前の、空いてしまった椅子を眺めながら、僕は呟いた。





珍しく不二くんが切ないです。
つぅか、不二が片想いの話って初めて?
あ、【ボクハミタサレル】がありましたか。
って、あれは片想いなんですか?ビミョー…。(だって、ほら、隠しページが…)
どうもね、不二くんには片想いは似合わないなって。まあ、これくらいならいいけど。
乾みたいにね、切羽詰った感のものはちょっと…。
ってな感じで。どうっスかね?こういう話。

ちなみに、SURFACEの曲が基になってます。

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