「あ、れ?」
 目を覚ますと、僕の視界は上下に揺れていた。曲がっていた首を、真っ直ぐに戻す。
「あ。不二。起きた?」
 僕の直ぐ横で、彼の声。よっ、と呟くと、僕をしっかりと負ぶった。僕は、彼の大きくて温かい背中にいた。
「タカさん。僕、もしかして倒れた?」
「うん。だからこれから保健室に行くところ。……もしかして、担架の方が良かった?」
「ううん。ここでいい。タカさんの背中が、一番居心地がいい」
 心配そうな声で言う彼に、僕はクスリと微笑うと、その肩に頬を押し付けた。ぶら下がっているだけだった手を折り曲げ、しっかりと彼に抱きつく。
「そうだ。おれ、不二が起きたら怒ろうと思ってたんだった」
 忘れてた。苦笑しながら言うと、彼はコホンと咳払いをした。もう一度僕を背負い直す。
「駄目じゃないか、不二。体調が悪いなら、倒れる前に休まないと」
 怒らなきゃ、と言った割に、全然怖くない。というか、心配そうなその声に、僕は思わず微笑った。
「笑いごとじゃないよ。本当に、びっくりしたんだから」
「うん。ごめん。でも、なんか」
 タカさんが、可愛くて。耳元に唇を寄せ、囁くようにして言う。と、彼はその場に立ち止まってしまった。
「……タカさん?」
 もう一度、耳元で言う。すると今度は、彼は顔を左右に振り、歩き出した。さっきよりも、少しだけ歩調を速めて。
「あ。もしかして、タカさん。照れた?」
「呆れてるんだよ。頼むから、ちゃんと反省してくれよ」
「してるって、反省。ごめんね」
 熱くなっている彼の頬に自分の頬を寄せ、ごめんね、と微笑いながら繰り返す。
「不二、何か元気取り戻したみたいだな。だったら、ここから自分の足で歩いて保健室に行くかい?」
 溜息混じりに言うと、彼は僕から手を離した。
「え?ちょっと、タカさん、ごめんって。ほら、ちゃんと反省してるから」
 宙ぶらりんになった足が地面に着く前に、僕は慌てて彼に謝ると、その体に足を絡めた。腕もさっきよりしっかりと力を入れて、体が落ちないようにする。
「……不二、苦しい」
「だって、こうしないと落ちちゃうし」
「……分かったよ」
 ぎゅっと更に力を入れた僕に、彼は溜息をつくと、落ちないように僕をまた背負い直した。彼がもう手を離さないことを確認し、自分の手と足を緩める。
「全く。そんな力が出るなら、もう大丈夫なんじゃないか?」
「うん。そうかもしれない」
「でも、一応念のため、保健室で熱測って。熱があったら部活を早退。なかったら見学。いい?」
 少しだけ強い口調。頬を押し付けるようにして僕を見ると、彼は言った。じっと見つめるその優しい目に、素直に頷く。
「うん」
 頷いた僕に頷き返す彼に、クスリと微笑うと、僕はその温もりに引き摺られるようにして静かに目を閉じた。



「おんぶ」と読みます。「負」と書いて。
タカさんには、不二をお姫様抱っこするよりも、負んぶして欲しい。
不二には、タカさんを負んぶするよりも、お姫様抱っこで(笑)。
あ、言っときますけど。これは不二タカですから。逆じゃないですよ。
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