青い傘で


 ここの所、ずっと青空を見ていない。
 それもそうだ。なんてったって、今は梅雨。あと二週間はこんな天気が続く。
 まぁ、今日は雨が降らないような薄曇りだとうだけでましだと思わないと。
「わっ」
 なんて思いながら伸びをしていたら、突然背中に負荷が掛かった。
「タカさん、おはよう」
 頬をピッタリとくっつけて言うと、不二はおれの前に回り、もう一度、おはよう、と言った。おれも、おはよう、と首を擦りながら返す。
「どうしたの?タカさん。首、痛そうだけど」
「不二がいきなり抱きついてくるからだよ。ひと声掛けてくれっていつも言ってるだろ?」
「あ。うん。そうだったね。ごめん。でも、さ。なんか。タカさん見たら、抱きつきたくなっちゃうんだよね」
「………なんだよ、それ」
 腕に絡みついてくる不二に、納得の行かない口振りで言うけど。
「まぁまぁまぁ」
 不二は相変わらずの笑顔で言うと、顔赤いよ、とおれの顔を指差した。その手に持っているものに、今更、気がつく。
「不二、天気予報観てないの?」
「うん?」
「今日はこのままずっと曇りで、雨なんか降らないよ」
 まだおれを指していた指を下ろさせると、不二の持っている青い傘を見ながら言った。ああ、と呟いて、その傘をおれに見せるように持ち上げる。
「天気予報は観たよ。今日は一日中、曇り。明日は雨みたいだけどね」
「だったら、何で持ってきたんだい?邪魔じゃないか?なんだったら、ちょっと戻って、おれのうちに置いていってもいいけど」
「ううん。いいの」
 にっこり微笑って首を横に振ると、不二は、よっ、と呟いて傘を広げた。いつも不二が使っているよりも大きい傘は、おれと不二の頭上を青くした。
「不二?」
「帰りだとさ、人目とかあるでしょう?でも、早朝(今)だったら、そんなにヒト居ないから。まぁ、学校に着けば、英二たちが居るけど」
 突然の行動に戸惑うおれにお構い無しに言うと、不二はそのままおれの手を引くようにして歩き出した。頭上は相変わらず青い。
「えっと。不二。やっぱりおれ、よく分からないんだけど?」
「タカさん言ってたでしょ。最近青空を見てないな、って。だから昨日、買ってきたんだ。空色の傘を」
 言うと、不二は傘を見上げた。つられるようにして、おれも上を見る。
「ね。なんか、青空の下にいる気分。太陽が無いのが、ちょっと残念だけど」
 腕を強く掴まれる感触に視線を下ろすと、不二はまだ傘を見上げていた。暫くして、おれに視線を戻す。どう?と訊いてくるその眼は、広げた傘よりも深く綺麗な空色をしてるように見えた。
「タカさん?」
「あ。いや。何でもないよ」
 早口で言うと、おれは慌てて不二から顔を背けた。胸の鼓動を静めるように深呼吸をして、ゆっくりと不二に視線を戻す。
「そうだね。青空の下にいる気分になれたよ。ありがとう、不二」
 傘で作った青空よりも、本物の青空よりも綺麗な青色に向かって言うと、おれは微笑った。



えーっと、365題『曇りの空』でコメントをくださった方へ捧げます。が、コメントの内容を保存し忘れてしまったので(笑)
the FIELD OF VIEWの『青い傘で』という曲を元に書きました。ウタダの『COLORES』じゃないよ。tFOVの方が発売早いよ。
つぅわけで、オマケ↓
「って」
「あ。ごめん」
「折角不二が青空を作ってくれたのは嬉しいけど、おれにはちょっと低かったかな」
「ごめんね。なんか、傘を差すとき、いつもタカさんの頭にぶつけてる気がする」
「いいよ。おれが気付かなかったのが悪いんだから。ほら」
「え?あ…」
「おれが持つよ」
「……うん。ありがと」
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