「たーくん」
不気味な声と共に背後に突然現れたそれは、河村に覆い被さるようにして抱きついた。
「勉強してるの?偉いねぇ、可愛いねぇ。おぢさん、食べちゃいたいよ」
クスクスと笑みを溢すと、河村の手からペンを取り上げた。ゆっくりと、首に腕を回す。
「不二。……っ!?」
注意をしようと振り返った途端、重ねられた唇。長い口付け。苦しくなったのか、河村は何とか不二を自分から引き剥がすと、大きく息を吸い込んだ。その拍子に、少し、咳き込む。
酒、クサイ…。
「ふ、じっ…。お前、また酔ってるだろ?」
「あー。解かったぁ?」
言って愉しそうに微笑う。悪びれた様子も無くあっさりと認めてしまう不二に、河村は深い溜息を吐いた。
どうせまた、親父に勧められたんだろう。だからとはいえ…。
「不二。お前は中学生なんだから。お酒飲んじゃ駄目だよ」
「だってぇ…タカさんの親父さんが注いでくるんだもん」
「注がれても、断る。解かった?」
「ふぁ〜い」
……駄目だ。全然解かってない。やっぱり、不二じゃなく親父にきつく言っといたほうがいいみたいだな。
河村は本日2度目の溜息を吐くと、勉強道具を片付けた。背中に圧し掛かろうとする不二を、自分の膝の上に座らせる。
ゴロゴロと、ノドを鳴らす音が聞こえてきそうだった。
膝の上に座った不二は、両腕でぎゅっと河村を抱きしめ、その頬に自分の頬を摺り寄せている。その姿はまるで、猫。普段は決して見せることの無い、不二の姿。河村はそんな不二を見ることが出来るのは自分だけだということに、嬉しさと、そして少しばかりの戸惑いを感じて、苦笑いを浮かべた。
「他の奴等に、今の不二を見せてやりたいよ。まさか、誰も不二がここまで甘えん坊だとは思ってもいないだろうな…」
溜息まじりに呟く。不二はその頬に唇をつけると、クスクスと微笑った。
「駄目だよ、タカさん。僕がこういう人間だって事は、僕とタカさん、二人だけの秘密。だって、そうでしょ?タカさんの前でしかこういう姿を見せないんだから…」
言うと、不二は河村に口付けた。まだ少し酒クサイそれに、河村は一瞬眉をしかめたが、口内に入ってくる熱ですぐに消し飛んだ。
「ねぇ、タカさん」
ニヤリ、と妖しい笑みを浮かべると、不二はゆっくりと河村を押し倒した。熱で頭が朦朧としている河村を見て、また、微笑う。
「やっぱり、家に帰るときお酒の匂いが残ってちゃいけないと思うんだよね。」
「……不二?」
この先に見えている展開を、河村は眼で問いかけた。不二は無言で微笑み、口付ける。ゆっくりと唇を離すと、耳元で囁いた。
「うん。だから、ね。運動して汗でアルコールを外に出さないと――」
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