カーテンから覗く朝陽で目が醒めた。
そのままぼんやりと天井を眺めていると、ベッドに窮屈さと温もりがあることに気づいた。
厭な予感。
僕はゆっくりと視線を隣へと移した。
「………っ!?」
そこですやすやと寝息をたてていたのは、タカさん……。
ヒタヒタと足音を立てて現実化してくる予感。
僕は彼を起こさないように気をつけながら、身体を起こした。
……やっぱり。
僕は、裸だった。
如何してこうなったんだろう?昨日の夜、何が遭った?
目を瞑り、必死で記憶の糸を手繰り寄せる。
…………。
…………………。
……あ゛。
確か、昨日の夜。
僕はタカさんの親父さんとお酒の飲みくらべをしてて。僕は結構お酒強いんだけど、親父さんもかなり強くって。それで、珍しく酔っちゃって。だから、タカさんに家まで送ってもらって。
……それで?
それで、どうなった?
…………思い出せない。肝心なところなのに。
「………そうだ」
僕は両腕を突き出すと、とりあえず見えている部分だけ、くまなく点検した。
痕はない、か。
少し、身体を動かしてみる。
よく聞く、腰の痛みもない。
一応、僕はほっと胸を撫で下ろした。
けど。
「……まさ、か」
また別の疑惑。
そんな筈はない、と思いながらも、僕は自分の手を止められなかった。
シーツを捲くる。彼の筋肉質な肩が現れる。
やっぱり、裸だ。
軽い眩暈。
これだけなら、まだ、良かったんだけど。
僕はついに見つけてしまった。彼の、肩や首筋にある、赤い内出血の痕を。所謂、キスマークってやつ。
「……うっそぉ。」
呆然とそれを見つめていると、寒さを感じたのか、彼が身じろいだ。
慌てて、シーツから手を離す。それとほぼ同時に、彼が眼を醒ました。
「…ん。ぁ。ふ、不二っ。」
眼が合うと、彼は顔を真っ赤にして、慌ててシーツを頭まで被った。
暫くして、それを鼻の部分まで下げると、僕をじっと見つめた。
「お、おはよ。」
気まずいながらも、とりあえず、挨拶をしてみる。
「……おはよう。」
更に顔を赤くすると、彼は小さな声で答えた。
彼が乙女チックに見えるのは、多分、僕の気のせいじゃないだろう。
戸惑いながらも、僕はベッドから降り、床に脱ぎ捨ててあった服を着ることにした。彼に背を向けて。
「あ、あのさ、不二。昨日、おれ…」
僕が服を着終わる頃、彼が申し訳無さそうな声で切り出した。
「ごめん。」
遮るようにして、僕が謝る。
「……なんで、不二が謝るの?」
その女の子な声色に、妙な哀しみを抱きながら僕は振り返った。
彼を見つめる。
「その…僕、酔っててさ、昨日のこと、憶えてないんだ。…なんか、その…非道いこと、しちゃったみたいで。……ごめんね」
『非道いこと』という言葉に、彼は一瞬だけ顔を歪めた。
「そっか。憶えてないんだ。そうだよね。酔ってなかったら、あんなことはしないよね」
自分自身への慰めにも聴こえる彼の言葉。
……何か、変だ。ヘンだよ、絶対。
「あっ。で、でも。何をしちゃったか、くらいは想像、つく、から。……身体、大丈夫?」
彼の肩に手をあて、そこについている痕を指でなぞった。
「……うん。」
彼は真っ赤にした顔を枕に伏せると、小さく頷いた。
「よかった」
何となく、安堵の溜息が出る。
「……不二っ」
言うと、彼は自分の肩に置かれていた僕の手を強く掴んだ。
さっきまでとは反対の、強い視線を僕に向ける。
「……な、何?」
厭な予感、再び。
その手を、離して欲しかったけれど。しっかりと捕まれていてびくともしなかった。とりあえず、僕は彼の次の言葉を待ってみる。
長い沈黙。
彼が、小さく深呼吸をするのがわかった。
………来る。
僕は思わず、生唾を飲み込んだ。僕の腕を掴む彼の手に、力が入る。
「不二。おれ、不二のこと――」
「って、ここで目が醒めたんだ。ねぇ、タカさんはこの夢、どう思う?」
僕は頬杖をつくと、隣で寝ている彼を見た。
「……不二。それ、たぶん、半分くらいは夢じゃないと思うよ」
彼は顔を真っ赤にしながら言うと、掴んでいたシーツを頭まで被った。