scarlet


「はい、これ」
 帰り道。照れくさそうに言いながら、彼が僕に手渡したのは、一枚の紙。
「『河村寿司食べ放題』……?」
「そ。その日、店休みにしてあるから。貸しきりだよ。ま、握るのは親父じゃなくておれだけどね」
 大丈夫、味は保証するから、と付け加える。
「いや…そうじゃなくて。何で?」
 券から彼へと視線を移す。見上げる僕に、彼は照れくさそうに微笑った。
「もうすぐ不二の誕生日だろ?だからさ。家族みんなで、食べに来なよ。おれからの誕生日プレゼント」
「そっか。ありがと」
 笑みを返し、券に視線を戻す。指定してある日は3月1日。……3月1日?
「ねぇ、タカさん。この日にち…」
「ああ。それね。間違いじゃないよ。ちゃんと不二の誕生日が2月29日だってことは分かってるから」
「でも、だったら何で?」
「ほら、今年は4年に1度の不二の誕生日だろ?だから、その日は家族でちゃんとお祝いしてもらったほうがいいと思ってさ。前に言ってたじゃないか。それ以外は裕太くんの誕生日のときに自分の誕生日も一緒に祝うけど、うるう年のときはちゃんと別で祝ってもらうって」
「あー…」
 確かに、そんなことを言った記憶がある。去年の、誕生日に彼に訊かれて。誕生日って言っても、去年は閏年じゃないから28日を僕の誕生日としたんだけど。
 そう言えば。あの時、彼から貰った手袋は、あまり使ってない。持ち歩いてはいるんだけど、いつもコートのポケットの中。だって、彼の左手がその役割を果たしてるから。
 温もりを確かめるように、繋いだ手を強く握る。
「優しいんだね、タカさんは。僕の家族にまで気を使ってくれるなんて。ありがと」
 呟いて、まだ埋まらない身長差を背伸びでカバーすると、僕は彼の頬に口付けた。途端、彼の顔が朱に染まる。
「っ不二。こんな所で…」
 突然の出来事に、真っ赤な顔であたりを気にしてる彼が可笑しくて。
「お礼だよ」
 その腕に頬を寄せながら言うと、クスクスと笑った。
 笑うなんて酷いなぁ、と呟くと、彼もまた、笑った。



短いけど。愛はこもってます。
スピッツじゃないよ。
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