雨の音


 突然の雨。僕は濡れて帰るつもりだったから傘は持ってこなかったけど。
 用心深い彼は、ちゃんと傘を持って来ていた。それも、僕が持ってこないかもしれないと言う事を考えて、少し大きめの傘を。
 実は、それが目的で僕はいつも傘を持たないなんて事は、絶対に秘密。
「雨、強いな」
「そうだね」
 昇降口に立ったまま、空を見上げる。暫く様子を見れば雨が弱まるかもしれないと思ったけど、空はどこまで行っても真っ黒で。このままぐずぐずしてたら、多分、もっと酷くなるだろう。
「仕方ないな。帰ろうか」
 彼も同じ事を考えていたらしい。深い溜息を吐くと、苦笑しながら言った。
「うん」
 頷いて、傘を持っているその筋肉質な腕に自分の腕を絡ませる。いつもそうしているのに、彼はいつも頬を朱に染める。そういう所が、僕には可愛くて仕方がない。照れた時の表情や仕草も勿論だけど、いつまでも『慣れない』という所が。彼らしくて、好き。
「……不二?」
 見つめたままなかなか踏み出そうとしない僕に、彼さんは赤い顔のままで訊いてきた。ふふ、と少し意地悪な笑みを返す。
「可愛いなって思ってさ」
「なっ…」
 僕の言葉に、彼は更に顔を赤くした。耳まで真っ赤になった状態で、固まっている。この科白も、何度言っても彼は慣れない。そして僕は、その可愛い反応に慣れない。彼のは、多分、純粋さとかそういったものなんだろうけど。僕のは、ただ莫迦なだけだと思う。親バカなんかと同じ類。『タカさんバカ』。
「好きだよ。タカさんのそういうとこ」
 彼の肩を掴み、背伸びをする。彼はまだ硬直したままだったから、少し大変だったけど。
「さ、帰ろっか。このままこうしてたら、ますます雨が酷くなっちゃうし」
 踵を地につけて、微笑う。やっとのことで硬直状態が解けた彼は、温もりを確かめるように、自分の唇に手を当てた。顔は赤いままだから、これ以上赤くなる事はなかったけど。その表情から、照れている事が読み取れた。怒られる前に、絡めた腕をギュッと抱き締め、その肩に頬を寄せる。
「まったく。不二には振り回されてばかりだな」
 溜息を吐くと、彼は困ったように頬を掻いた。彼の言葉に、肩に頬をくっつけたままで首を横に振る。くすぐったいよ。彼が微笑った。
 彼の腕を引き、歩き出す。
「違うよ。僕がタカさんを振り回してるんだよ」
 傘の下で反響する雨音。呟いた僕に、彼は、何?と訊き返した。何でもないよ。微笑って、密着するように体を寄せた。
 不思議なことに、五月蝿かったはずの雨音は消えていて。かわりに、触れ合う箇所から彼の体温と鼓動が伝わってきた。



365題『雨の日』から。
他CPで雨に関する話を結構書いているので、ネタがなかなか思いつかんかったよ。
BGMはマイラバです。『雨の音』。
……し、白不二ですよね?
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送