雪に埋もれて...


 色の無い校庭。雪の中。横たわって空を見上げる。白い空。ひらひらと落ちてくる雪。綺麗な雪。銀色の雪。僕には無いもの。彼、そのもの…?

「こんな所で何をしてるんだ」
 視界を遮るようにして影が入る。ぼんやりと遠くを見つめていた所為で、焦点を合わせるのに時間がかかる。
「……手塚。」
 僕がその名を呼ぶと、彼は黙って手を出してきた。
「…何?」
「起きろ。そんなところで寝ていると風邪を引く」
 言う彼に、僕は微笑うと首を振った。彼の眉間に皺が寄る。
「何故?」
「気持ち良いから」
「………。」
「浄化してるんだよ。僕のココロを。この雪で」
「……で。綺麗になったのか?」
「ううん。無理みたい。この量じゃ足りない。僕は穢れ過ぎた」
 僕の言葉に、彼が呆れたような表情をする。
「…馬鹿だな、お前は」
 溜息まじりに彼が言う。僕は微笑った。
「………うん。」
 彼も微笑った。
「ここ、いいか?」
 僕の隣を指差す。一応、頷いてみる。でも。
「そのまま座ると、濡れちゃうよ?」
 心配する僕に構わず、彼は座った。
「構わん。お前だってそうだろう?……それに、このウィンドブレーカーは防水加工だ」
 真っ直ぐ前を見、淡々と言う。それがなんか可笑しくて。僕は小さく声を出して微笑った。
「……何故、笑う?」
「手塚らしいって思ってさ」
 僕の言葉に、彼は何も返さなかった。怒ったのかと思ったけど、ここから去ろうとしないから。どうやら怒ってはいないみたいだ。
 そのまま暫く、沈黙が続いた。僕は目を閉じ、雪の音を聴く。と、すぐ隣に気配を感じて僕は目を開けた。隣を見る。
「……手塚。」
 彼は横になって、僕を見ていた。
「風邪、引くよ?」
「そうだな」
「……馬鹿だね」
「お互い様だ」
 微笑いあい、互いに空を見つめた。校庭の真ん中で、横になって空を眺めているなんて、きっと、周りから見たら変な光景なんだろうな。まあ、今は冬休みだし、この雪。誰かが見てる可能性なんて零に等しいんだけど。
「…綺麗だな」
「うん。」
 風が強くなってきたらしく、雪が空の中で踊る。本当。すごく、綺麗だ。カメラ持ってきて正解だったな。
 僕は胸に置いてあったカメラを取ると、横になったままで何度かシャッターを切った。横目で彼を見る。
 出来れば雪だけじゃなく、彼も一緒に撮りたい。雪のように綺麗な彼を。
「君って、雪みたいだよね」
「……何だ?」
 不意に口をついて出てきた言葉。彼は驚いて僕を見た。僕はカメラごと彼の方を向くと、一度だけシャッターを切った。
「………撮るな、よ」
 彼が恥ずかしそうに顔を手で隠す。僕はカメラを下ろすと微笑った。
「ごめん。でも、こうしないと、君、撮らせてくれないからさ。」
 微笑う僕に、暫く困ったような表情をしていたが、咳払いをすると、照れたように微笑った。
「…別に、お前が撮りたいというのなら、構わん、が」
 彼から出てきた意外な言葉に、僕は一瞬耳を疑った。が、彼の紅くなった顔が、それが錯覚なんかじゃないのだと知らせる。
「……うん。ありがと」
 言うと、何故か僕まで照れてしまい。二人で、照れ笑いをした。なんだか、ムズがゆい。

 一通り写真を撮り終えて、僕らはまた校庭の真ん中で寝そべっていた。さっきと違うのは、僕の右手には彼の左手があるということ。
「…オレが雪みたいだといったが」
 不図、彼が思い出したように呟いた。僕は空から彼へと視線を移す。
「うん。」
 彼も、僕を見る。
「何故、そう思うんだ?」
 真っ直ぐな眼で問われて、僕は苦笑いを浮かべた。
「そんな大した意味は無いけどね。ほら、君って自分に正直じゃない?何処までも真っ直ぐで、何処までも透き通ってて、何処までも綺麗で穢れてない。君のね、イメージカラーが。ちょうど、こんな雪みたいな色なんだ。純白って言うか、銀色って言うか」
 空を見上げ、左手を掲げる。雪のシャワーを浴びるように。
「言ったよね。雪で浄化してるって。でも、雪なんか使わなくても僕は浄化できるんだ」
 言って、右手を強く握った。彼に視線を戻す。
「僕はね、君と居るだけで救われてるんだよ。」
 微笑って見せる。彼は一瞬の空白の後、顔を真っ赤にして眼をそらした。
「……オレはそんなに綺麗な人間じゃない」
「でも、僕にとって君は…」
「オレには、お前の方が雪のように思える」
「……え?」
 僕の言葉を遮るようにして、彼が言った。視線は相変わらず僕からそらしたまま。
「雪、というより、水、だな。何処までも透き通っていて、形が無く、掴めない。生物とって欠くことの出来ないものだ」
「……どういう意味だい?」
 珍しい。彼がこんな哲学的なことを言うなんて。
 僕が訊くと、彼は視線をやっと僕に移した。繋いでいる手を見えるところまで移動させる。
「…そのままだ。オレはお前が良く解からない。お前は時々で変化するからな」
「ハハハ」
 渇いた笑い。そんな解釈か。彼がそんな風に僕を見ていたなんて。なんだか少し哀しい。
「それと…」
 苦笑いを浮かべる僕の手を、彼が強く握る。顔を紅くしながらも、彼は真剣な眼で僕を見た。
「オレにはお前が必要だということ、だ」
「…………。」
「…………。」
「………手塚、今、なんて…」
「二度は言わん」
 耳まで顔を紅くすると、彼は起き上がった。身体についた雪を掃い、僕に手を差し出す。
「ここは寒い。オレの家に来い」
「…え?」
「庭はそれなりに広い。写真を撮るには事欠かないだろう」
「…………。」
「…………。」
「………不服か?」
「ううん。」
 僕は首を横に振ると、彼の手を取った。起き上がり、そのまま彼の腕に自分の腕を絡める。
「お、おいっ」
「ありがと」
 慌てる彼に耳元で囁く。
「寒いから、ね?」
 微笑って見せると、彼は苦笑しながら頷いた。





ウブい不二塚第二弾!(ちなみに第一弾は『スカイ・ブルー』/笑)
アップするのが後回し後回しになってて。
気がついたら、冬休み終わってましたね。ドンマイ、アタシ!(笑)
ちなみに、ここでは不二くんは浄化されるとか言ってますが、
基本的に彼を浄化できるのはタカさんだけです(爆)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送