男は静かにその扉を開けた。建物全体に機械音が反響する。
 男は明かりもつけず建物に入ると、迷わずに廊下を歩いた。もう長い間来ていなかったというのに、身体はその建物の構造を憶えているようだ。
 足音だけが響く。ここには、男以外誰も居ない。
「………。」
 男はある一角で立ち止まると、ポケットからライターを取り出した。その火を灯りに、壁を照らす。三角の2つのボタン。エレベータだ。男がボタンを押すと、エレベータはすぐに開いた。灯りが漏れる。電気はまだ通っているらしい。それもそのはず。この建物を管理しているのは他でもない、この男。電気が通っていなければ、この建物は意味を持たない。
 男はエレベータに乗り込むと地下5階へのボタンを押した。扉が閉まる。壁に寄り掛かかり、鏡を見つめる。
「……背、伸びたな。もしかしたら並んだかも。」
 鏡の中の自分を見つめ、男は呟いた。彼と最後にあった日の自分と比べているのだ。
 あれから2年。男にとっては辛く、長い日々だった。彼に触れることが出来ない、その声を聴くことが出来ない。それだけで、発狂しそうだった。だから、暫くの間は彼とは会っていた。けれど…。いつしか、それもしなくなった。いっこうに自分を見ようとしない彼を見る事が、男にとって何よりも苦痛だった。
 エレベータが止まり、扉が開いた。男はだるそうに身体を持ち上げると、エレベータから降りた。
 目の前には、鉄の扉。
 隣にある機械に暗証番号を入れ、カードをくぐらせる。と、扉は重い音を立てて開いた。眼に痛いほどの光が飛び込んでくる。男は思わず眼を細めた。
 光に眼が慣れたのか、男は蒼い眼を光らせ姿勢を正すと、その光の群れの中へと歩みを進めた。
 光の中心に現れたのは、銀色の箱。機械仕掛けの棺。
「……逢いにきたよ」
 ガラス張りになっている箱の上部から、その顔をなぞる。頬を包むように手を置くと、ガラス越しに唇を落とした。
「手塚」
 呟くと、ガラスの上に涙が落ちた。
「…あれから2年。永かったよ。でも、君の理想に叶う為に、僕は…。」
 嗚咽に、言葉が途絶える。男は膝から崩れると、そのまま声を殺して泣いた。

 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。男は涙を拭くと立ち上がった。その口元には、それまで泣いていたのが嘘のような、不気味な笑みが浮かべている。
「…うん。永かったよ。でも、今日でそれも終わる。今日が何の日か分かるかい?僕の誕生日だよ。君が冷凍睡眠についてから2年。僕は君より2つだけ歳をとった。そう。あの大和と同い年になったんだ。君の大好きな大和部長とね」
 クスクスと微笑い声を上げると、箱のサイドに取り付けられた機械を操作し始めた。不気味な機械音が部屋を揺らす。
「君は憶えていないかもしれないけど、君は僕の告白を断る時にこう言ったんだ。『オレは年上のヤツが好きだ。例えば、大和部長のような』ってね。下手な振り言葉だって思ったよ。でも、それは違ったんだね。君はあの時、本当に大和と…。だから、僕は君より2つだけ歳をとる方法を考えた。そしてあの日、ようやくその計画を実行に移したんだ。ああ。そうだ。念の為に言っておくけど、君は死んだことになってるよ。当たり前だよね。2年も姿を現さなかったんだから。大丈夫。僕の家は広いんだ。君も知ってるだろ?僕が事業で成功したってこと。ちゃんと君の部屋は用意してあるよ。日当たりのいい部屋だ。外に出られないんだから、それくらいのことはしてあげないとね。そう、それとね。大和は僕が――」
 男の言葉は機械音にかき消された。棺の扉が開く。
「さあ、手塚。あとはこれで君の心臓を解凍するだけだよ」
 歪んだ笑みを浮かべる不二の眼から落ちた滴は、持っていたガスバーナーの炎に吸い込まれるようにして消えた。


解凍実験






都合上、タイトルは最後にさせて頂きました。
……って。またかよ(泣)
あーん。ごめんなさいっ!
こんなもんばっかり書いてますが、不二塚大好きなんです。ホントです。信じてください!!
全ては黒夢の所為。黒夢の所為。。。
夜中にね、何を書こうかなーなんて考えながら黒夢のCDを聴いていたら、【解凍実験】が流れてきて。
「冷凍されたある人間の心臓を
 ガスバーナーで解凍せよ
 直ちに解凍せよ」
なんて命令されたもんだから、つい。(←馬鹿)
ちなみに、大和部長に深い意味はありません。寧ろあのキャラは好きです。殺してごめんネ。

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