誰よりも早い愛の歌


『今日、空いてるか?』
『うん。』
『家で。天体観測しない、か?』
『………うん。』

 急な出来事で。ナニガナンダカよく理解んなかったけど。珍しく手塚が誘ってくれたものだから。はりきって天体望遠鏡なんか担いで彼の家まで行ったんだ。

けど。

「………雨、降りそうだね」
 夕方まで、雲ひとつない空っぽな天気だったのに。
「手塚が珍しく誘うからだよ」
 大袈裟に溜息を吐いてみせる。小さく、すまん、と呟く声が聞こえた。
「ま、いいけどね。手塚が誘ってくれたっていうだけで、僕は嬉しいから」
 沈んだ眼の手塚に微笑って見せると、僕は大きく伸びをした。
「んじゃ、僕は帰ろうかな。望遠鏡、置いといていいよね?」
「………?」
「帰るよ。傘、持ってきてないし。天体観測、中止になっちゃったしね」
「……怒って、いるのか?」
 言うと、手塚は顔色を窺うような視線を僕に向けた。こういうところだけ見ると、実際の年齢よりも幼く思える。『部長』ではない、手塚。こんな顔を見られるのは僕だけだろうな、なんて思うと、凄く嬉しい。
「怒ってないよ。…あ。バッグ取って」
 なだめるように優しく微笑う。
 手塚は安心したように溜息を吐くと、自分の横に置いてある僕のバッグを取った。
「……ほら。」
「ん。ありがとっ…!?」
 受け取ろうと伸ばした僕の手を掴むと、手塚はそのまま自分の方へと引き寄せた。抵抗する間もなく、僕は手塚に抱きしめられる。
「………手塚?」
 僕は手塚から少しだけ躰を離し、見つめた。瞬間、僕の躰から彼の体温が消える。少し淋しいけど。でも、こういつもと違う態度っていうか行動ばかりとられると、そっちの方が気になって。なんか、ね。
 手塚はというと、見上げる僕から眼をそらすようにしていた。少し、頬が赤い気がするのは…気のせい、じゃないよね?
「傘…なら、オレのを使えばいい、し。今日、は…その…珍しく家の者は誰も居なくて、だな…」
「………居ないから、何?」
「その…泊まっていく、だろ?」
 彼の口から出た言葉に、僕は一瞬自分の耳を疑った。珍しい。本当に、今日はどうしたというのだろう。
「嫌か?」
 呆然と見つめる僕に、彼は不安げな声で言った。慌てて僕は首を横に振る。
「厭なわけじゃないじゃない。嬉しいよ」
 満面の笑みを見せると、僕は彼の背に腕を回そうとした。けれど。
「そうか。なら、いいが」
 彼は安堵の溜息を吐くと、何事もなかったかのように僕から手を放し、背を向けてしまった。
 ……何で?これからイイコトするんじゃないの?
 彼の一言に抱いた期待はあっさりと壊され、本気で僕の頭は混乱し始めた。とりあえず、今は、彼の次の行動を黙って見守るしか無さそうだ。僕は小さな溜息を吐くと、ベッドに座った。軋みに、彼が少しだけ反応したように見えた、けど。多分、僕の見間違いだろう。
 手塚は机の引出しから小さな箱を取り出すと、僕の隣に座った。
「これ。」
 目を合わせないようにして呟くと、彼は僕の掌にその箱を乗せた。
「……何?」
「お前に、やる」
 ……………これって、もしかして、プレゼント?
「でも、何で?」
「要らないなら、いい」
「いや、要らないわけじゃないよ。ただ、何でなのか理由がよく…」
「今日は、バースデー・イヴだ…から」
「………え?」
「今日は28日。お前の誕生日の前日だろ」
「ああ。そう言えば」
 確かに。今日は2月28日。でも。
「今年は、29日は来ないよ?」
 僕の言葉に、彼は大きな溜息をついた。少し怒ったような眼で僕を見つめる。
「だから、さっき言っただろ。今日はバースデー・イヴだと」
「……だから、さ。今年は…」
「それでも。28日が29日の前日だと言う事には変わりない」
「……………。」
「29の前は28だからな」
 ………いや、確かに、そうなんだろうけど。
「…不服か?」
 なら返せ、と箱に彼が手を伸ばす。僕はその手を捕ると自分の方に引き寄せ、触れるだけの口付けをした。
「さっきのお返し。別に不服だなんて思ってないよ。手塚らしいなって思っただけ。嬉しいよ。ありがと。」
 微笑って見せると、彼は少し顔を赤らめた。
「……いつも、貰ってばかりでは不公平だからな」
 呟くと、彼は僕の視線からのがれるようにして下を向いた。
 そう言えば、去年も一昨年も、2月29日が来なかったから、手塚との僕の誕生日の思い出はひとつもなかったっけな。手塚の誕生日は僕が無理矢理祝ってあげてたけど。きっと、これが彼なりの精一杯なんだろうな。あれこれ悩んでたのかもしれない。そう思うと、なんかムズガユイ。
「…開けて、いい?」
「もうそれはお前のものだ。好きにしろ」
 俯いてるから、彼が今どんな顔をしているのか解からないけど、きっと真っ赤なんだろうな、なんて。現に、彼の耳、赤くなってるしね。
 僕は視線を彼から掌の箱に戻すと、それを開けた。中に入っていたのは、クロス形をしたピアス。
「……これ…」
「ピアスだ。開けたいって言ってただろ?だから」
 真っ赤になった顔をようやく僕に見せると、彼が言った。
「でも、これ、2つあるよ?」
 僕は左に1つ開けるだけでいいんだけどな。
「これは…」
 呟くと、彼は箱に手を伸ばしピアスと1つ手に取った。
「オレのだ」
「………え?」
「オレのだ。」
 ………それって…。え?待って。でも。
「いいの?手塚のお祖父さん、そういうの厳しいんじゃない?」
「…大丈夫だ。ちゃんと許可は取ってある」
「アハハハハ…」
 許可済みっていうのも、どうかと思うけど。まあ、いいや。嬉しいから。
「ねぇ、手塚。安ピンかなにか、ない?」
「……何をする気だ?」
「早速サ、着けてみようよ。ねっ」
「………駄目だ。」
 はしゃぐ僕に、怒ったように言うと、彼は箱の中からもう1つのピアスも手に取った。
「え?」
「ちゃんと病院で開けること。それがお祖父さんの出した条件だ。それに……」
「それに?」
「自分で開けたら、献血に行けなくなるだろう?」
 ………ケンケツ。けんけつ。献血、ね。
「アハハハハ」
「な、何がおかしいっ」
「いーや。手塚らしいなって思ってね」
 何か、ちょっと間抜けだけど。こういう方がやっぱり落ち着くかも。『珍しい』っていうのは新鮮でいいんだけどね。僕が好きなのはそのままの手塚だし。
「じゃあ、今度、病院デートしようね」
「…バカ。」
「莫迦でもいいよ。」
 クスリと微笑うと、僕は再び赤くなった彼の頬に口付けをした。





DEENです。ちゃんとした曲タイトルは『Birthday eve 〜誰よりも早い愛の歌〜』とゆーんですよ。
だって、そのまま使っちゃうとネタばれに…。
この歌を聴いた瞬間に、是は不二の誕生日に使うぞ!って決めてたんです。だから、やっとこさって感じ。
久しぶりに書いた物語なので、設定にかなり無理があったりなかったり…。(天体望遠鏡担ぐとか手塚の家に誰も居ないとか)
まあ、たまにはこういうバカップル的なの(?)もいいかなって。
つぅか、書いてすぐのUP(見直ししてない)なので、誤字脱字等があるかも。
そのうちチャント修正しよっと(笑)。

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