カウントダウン


 地下への階段。反響する、自分の足音。それに合わせるように、鼻歌を口遊さむ。
 彼を閉じ込めてから数時間が経つ。そろそろ薬の効果が消える時間だ。もう目を醒ましているだろう。
 この扉の向こうに彼が居る。
 ………愉しみだ。
 彼は、一体、僕にどんな表情を見せてくれるんだろう。困惑?憤怒?恐怖?絶望?考えただけで、タマラナイヨ。

 僕は深呼吸をすると、湧き上がってくる感情を押し殺し、いつもの顔に戻った。
 鍵を回し、鉄の扉を押し開ける。重い音と共に、冷たく湿った空気が流れ込んで来た。
 彼は……眠っている。まだ薬が効いてるみたいだ。そう言えば、忘れてたけど、彼は薬の効きやすい体質だったっけ。愉しめるときは愉しめるんだけど、今は厄介なだけだ。
 気持ちよさそうに眠ってるところ悪いんだけど、時間ないんだよね。
「手塚、起きて」
 呟くと、僕は手塚の顔を足で軽く蹴飛ばした。
「……う、ん。」
 手塚が身じろぐ。僕は口元に笑みを浮かべると、その頭を乱暴に掴んだ。薬が効いている所為か、目の焦点が合うまでに時間がかかっている。
「…っじ?」
「手塚、起きたね」
 彼が僕を認めたのを確認すると、顔を地面にぶつけるようにして手を離した。顔を強かに打ち付け、彼が苦痛の表情を見せる。その顔に、僕の抑えてた感情が再び湧き上がってきた。微笑いが、零れる。
「……不二、ここは?」
「お仕置き部屋。」
 クスリと微笑うと、僕は置いてあった椅子に腰を下ろした。彼を見つめる。彼は部屋を見渡していた。唖然とした表情で。多分、次は激怒するだろう。自分の置かれている状況にやっと気づいて…。
「な、んだ……これは?」
 彼は自分の両手首についているモノ、そしてそこから垂れ下がっているモノを見つめると、恐る恐るそれに触れた。もう一度、なんだ、と問う。
「鎖だよ。君を逃がさない為の、ね」
「なっ」
「君は僕のモノなんだから」
「……っざけるな!」
 彼は憤怒の表情を見せると、僕に詰め寄った。けれど、もう少しで僕に触れるというところで彼の動きは止まった。扉の近くに居る僕に彼の手が届くはずがない。鎖の長さは、そう長くは無いんだよ。
「惜しい。もう少しだったのにね」
 最低の笑みを見せと、彼の頬を包み、触れるだけの口付けをした。彼の顔が屈辱に歪む。
「……サイコーだね」
 ベッドの上で見る色っぽい表情もいいけど、こういうのも悪くない。
 暫くの沈黙の後、彼は小さく溜息を吐くと、錆びているベッドに座った。諦めたのかと思ったけど、そうではないらしい。彼が鋭い眼つきで僕を睨む。
「……不二。これを外せ」
 言うと、彼は両手を持ち上げた。ジャラと重々しい音が部屋に響く。
「駄目だよ」
 僕は優しく微笑って答える。
「君にはお仕置きが必要なんだ」
「………今ならお前を許す。だから、外せ」
「…許す?誰が?誰を?」
 この期に及んで命令口調とは。しかも、君が僕を許す?……もしかして、まだ理解っていないの?この状況を。
「莫迦言わないでよ。許すのは僕。それを乞うのは……手塚。君だ」
「……なん、だと?」
「そんなに驚かないでよ。心当たり、無いの?」
「…………。」
「…………。」
「……まさか」
「当たり。」
 クスリと微笑って見せる。彼は驚愕の表情を浮かべたまま、動かない。いいよ、その顔。カメラ、用意して置けば良かったな。
「僕が知らないとでも思ったの?君と、越前のこと」
 わざと足音を立てて彼に近づくと、その隣に座った。肩が触れる。彼は過敏すぎるほどの反応をし、僕から少し身体を離した。緊張なのか、恐怖なのか。彼の手が微かに震えている。おもしろい。オモシロイヨ、テヅカ。
「ねぇ、あんなヤツの何処がいいの?」
 彼の手に優しく触れた。でも、彼が逃れようとするから。思わず、手に力が入る。
「……っ。」
「あんなヤツと居るより、絶対に僕と居る方が幸せになれるのに」
 ギリギリと、握る手に力を入れる。
「……っぁう」
「………煩いよ」
 呟くと、僕は彼をベッドに押し倒した。馬乗りになり、彼の大事な肩を強くベッドに押し付ける。
「ねぇ、喚いてないでさぁ。僕の質問答えてよ。あんなヤツの何処がいいの?外見?性格?躰?」
「……が悪いんだ。越前は関係ない。オレがっ」
「駄目だよ、ちゃんと質問に答えないと」
 僕は彼から手を離すと、隠し持っていた鉄の塊を取り出した。
「不二?」
「ホンモノだよ」
 クスリと微笑うと、それを彼の眉間に当てた。
「ねぇ、僕の言う事きいた方が良いんじゃない?君だって、まだ死にたくは無いでしょう?」
 引き金を引く真似をしてみせる。彼の顔が、一瞬だけ引き攣った。
「ねぇ、越前の何処がいいの?」
 もう一度、繰り返してみる。
「……越前は関係ない。オレが誘ったんだ。だから、オレが悪いんだ」
 まるで、莫迦の一つ憶え。どうしてかばうの?そんなにアイツがいいの?それ程までに…?
 僕は持っていた鉄で彼の頭を殴ると、躰を離した。扉の近くにある椅子に座りなおす。
「君は理解ってないんだよ。僕の大切さを。僕がどれだけ君を想っているかを。僕はね、手塚。君の為ならなんだって出来るんだ。」
「……ふっ、じ。」
 躰を起こした彼の頭からは、綺麗な緋が流れ出している。
「そうだ。ねぇ、跪いて謝ってよ。そうしたら許してあげる。謝って、僕だけを愛してるって言って。」
「…………。」
「ねぇ、言って。愛してるって」
「断る」
「……何故?」
「オレには越前が…」
「越前はもう居ないのに?」
「なっ」
 彼が驚きの表情を見せる。僕はクスリと微笑うと銃口を彼に向けた。
「だから言ったでしょう?僕は君の為ならなんだって出来るってサ。君と越前の関係に気づいた時点で、どっちが誘ったのかなんて判ってるんだよ。越前はヒトのモノを盗ったんだ。そういう悪い子にはお仕置きをしないとネ」
 BANG!と銃を撃つフリをした。彼の顔が恐怖で青ざめる。僕は声を上げて微笑った。愉しくてたまらない。やっぱり、君はこの世で一番ステキな玩具だよ。
「さて。次は君の番だよ。ねぇ、何か言い訳は?」
 今更、遺言にしかならないけどね。
「……オレが、悪かった」
 トリガーに指を置き、彼に照準を合わせる。ゆっくりと、一歩ずつ、彼に近づく。
「ねぇ、僕だけを愛してるって言って」
 君の最期の言葉として受け取るから。
「……不二、オレは、お前だけを愛してる」
 彼が、苦々しい顔で言った。悔しいかい?
「アハハっ。サイコーだよ、手塚」
 彼のこめかみに銃口をあてると、僕は触れるだけの口付けをした。
「今の言葉、忘れないでね」
 トリガーを引く。
「目を閉じて」
「不二っ!?」
「早く。」
 躊躇いながらも、彼は眼を閉じた。可愛い、カワイイ、手塚。僕だけの玩具。最期の最期で、こんなに愉しませてくれるとはね。やっぱり、君を好きになって良かったよ。
「すぐに後を追うから。待っててね」
 クスリと笑みを溢すと、僕は躊躇う事無く引き金を引いた。
 轟音。そして静寂。
 倒れた手塚をベッドに丁寧に寝せると、僕はその唇に自分のそれを重ねた。ねぇ、どうしようか。僕は、君が愛おしくてたまらないよ。
 彼の隣に寝そべり、その横顔を眺める。
「手塚。僕も、君だけを愛してるよ」
 呟くと、僕は自分のこめかみに銃口をあてた。左手は、彼の右手に。
「……愛してるよ……」
 意識が途切れる瞬間、生温かいものが僕の頬を伝った気が、した。





♪その鼻をへし折って倒して蹴り上げるわよ〜♪
Coccoです。なるべく歌詞に忠実にやってみました。てへっ。
どんどん死にますね。不二くん、一体アタシの中で何回死んでるんでしょう?手塚も。
スンマソン。
銃はどこで手に入れたの?地下室なんて不二君の家にあるの?
疑問はたくさんありますが、追及してったらキリが無いですネ(笑)

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