ノータイトル


「ねぇ、手塚。僕の事、好き?」
 帰り道。突然、不二が口を開いた。オレは少し考えた後、ああ、とだけ返した。
「じゃあ、言葉で言って。」
 減るもんじゃないからいいじゃない、と不二が微笑う。確かに、減りはしないだろうけれど。見つめられて、言える筈がない。
 暫く黙っていると、不二がしがみつくようにして腕を絡ませてきた。言ってくれ、と再びせがむ。
「………好き、だ」
 眼をそらし、小さな声で呟いた。けれど、それはちゃんと不二の耳に届いていたらしく、満足そうに微笑むと、そのまま笑い声を上げた。
「何が、可笑しいんだ?」
 いつものことだが、理解不能な不二の行動に、オレは少し戸惑う。
「いや…君は僕のこと、本当に好きなんだな、って思ってさ」
「何だ、それは?」
「だって、さ。…ほら、君って、結構潔癖でしょ?そんな君が僕のことが好きだなんて、ね」
 どうやら笑いのツボに入ったらしい。オレの腕を掴む手に力を入れると、そのまま体重を預けるようにして本格的に笑い出した。その振動が、腕から伝わってくる。
「そんなに、可笑しい、か?」
 少し、ムッとした声になる。多分、他の誰もは気づかないだろうが、この男にはそれが解かってしまう。
「ごめんごめん。そんなに拗ねないで」
 やはり。
 相手の考えていることは解からないのに、相手はオレの考えていることが手にとるように解かる。そういう関係。少し、不公平だと思う。だが、それ以上に、何故か嬉しく感じている自分がいる。
 今までにはいなかった、いや、多分、これからも他にはいないであろう、自分を理解してくれる、たったひとりの、人間。
 不二は呼吸を整えるようにして何度か胸を撫で下ろすと、もう一度、オレの腕を取った。
「僕は君の思ってるような綺麗な人間じゃないからね。寧ろ、君とは正反対の位置にいる人間だよ」
 だから惹かれ合うのかもしれないけどね、と付け加えると、不二は自嘲気味に微笑って見せる。
 馬鹿馬鹿しい。溜息が出る。
「だから、なんだというんだ?」
「一緒にいると、君まで汚れてしまうよ」
「………オレは別に」
「手塚。」
 オレの言葉を遮り、不二が呼んだ。眼をやると、その先は言うな、とでも言うように頭を振る。
 そのまま、沈黙が続いた。
 何を話せばいいのか、解からない。そもそも、こういう時、何か話を切り出すべきなのかどうかも解からない。そういえば。いつも話しをしていたのは不二の方だったということに気付く。
 もうすぐで、オレの家に着いてしまう。やはり、何か話すべきなのか?
 と、突然、不二はオレの腕を解くと、オレの目の前に立った。
「……不二?」
「ねぇ、手塚。キス、しよっか?」
「なっ…。こんな所で、か?」
 思わず、辺りを見廻す。日も暮れているとはいえ、こんな所で…。
「いーじゃない。どうせ誰も見てないよ。ねっ?」
 縋るような眼で見つめられて、オレは本日二度目の溜息を吐いくと、不二の肩を掴み引き寄せた。一瞬だけ、唇を重ねる。
「……これきりだからな」
 躰を離し呟く。
「ありがと」
 嬉しそうに言う不二の顔には、いつもの笑顔が戻っていた。

「手塚!」
 別れ際。名前を呼ぶ不二に振り返ると…
「んっ………」
 肩に手を回され、突然の、口づけ。それは先ほどオレがしたのとは正反対のもの。
「……ぁ。」
 離れた唇に少しだけ淋しさを感じる。いや、そんなことよりも……
「不二、今、何をっ!?」
「お礼、だよ」
 楽しそうに不二が微笑む。
「今日は君の色んな表情を見ることが出来たからね。それに、珍しく君のほうからキスしてくれたし」
「……だからって、こんなっ」
 家の前で。誰かに見られたらどう責任を取る気なんだ?
「あはは。大丈夫。誰も見てないかどうかなんて、確認済みだよ」
「………。」
「じゃあね、手塚。また、明日」
 呆気に取られているオレを余所に、不二は背を向けるとそのまま暗闇の中に消えていった。
「…………ああ。また、明日な。」
 手で唇の感触を確かめながら、オレは闇に向かって呟いた。





何気にこれが一番初めに書き終えた物語だったりして(笑)。
初心いわ。うぶいわ。ウブいわ。そして手塚が可愛いわ。誘い受けだわ(爆死)
不二くんはね。自分が普通の人間じゃないことを知ってるの。
んで、純粋な手塚くんの事を天使みたいだと思ってるの。汚れてなくて、綺麗なね。
だから本当は一緒にいちゃいけないの。でも、そう思う気持ち以上に好きみたい。
なもんで、一緒にいてはいけないと思いながらも、お付き合いをしております。

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