「さっむーい!」
オレが隣に並ぶとすぐに、不二が腕に絡まってきた。オレは何も言わずその手をとると、自分のコートにねじ込んだ。
「……手塚?」
いつもと違うオレの行動に、不二が不思議そうな顔をする。
「冬は、寒いからな」
咳払いをし、理由にならない理由を言う。突っ込まれるかとも思ったが、不二は暫くオレの顔を眺めたあとで、そうだね、と呟いた。オレの手を握り返してくる。
夕暮れ時。1、2年は部活をやっているし、3年は受験の為、学校に遅くまで残って勉強をしているか、さっさと家に帰って勉強をしている。なので、四季の道と呼ばれるこの道には、オレたち以外、誰もいない。無論、オレたちも受験生なので図書館にこもって勉強をしてはいるのだが。夕日を見たいという不二の意向により、この時間になると勉強を切り上げて帰るようにしている。
生憎、今日は曇りで。夕日なんて見えないのだが。隣で鼻歌を歌っている不二を見ると、どうやら、本来の目的はそれではないらしい。
まあ、たまにはこういうのもいいだろう。
それに、時間帯は違ったとしても、どちらにしろ家に帰る為には不二と並んでこの道を歩かなければならない。だったら、誰かに見られる心配のないこの時間帯の方が全然良い。
「雪、降らないかな」
唐突に、空を見上げ不二が言った。オレも見上げる。視界いっぱいに広がる、鈍色。
雪、か。確かに、最近は寒い日が続いている。けれど。
「今は11月だ。雪が降るにはまだ早い」
「ふーん。つまんないの」
不満そうな声を上げると、不二はオレを見て頬を膨らせた。
「オレに怒っても、仕方がないだろう」
全く、と大袈裟な溜息をついて見せたが、どうやら効果はないらしい。
「雪、降ればいいのにね。ねぇ、手塚。雪。降らせてよ」
オレから手を離し、少し前を、落ち葉を蹴りながら不二が歩く。怒っているはずなのに、その後ろ姿は何故か楽しそうだ。
「そんな事していると、今に転ぶぞ」
「うん。大丈夫」
オレの言葉に振り返ると、不二は微笑った。
「ったく…」
オレの心配を余所に、落ち葉を蹴りながら一箇所に集めていく。それを手ですくうと、そのまま空高く投げた。ひらひらと、乾いた落ち葉が不二の元へ舞い落ちて行く。
まるで雪の中にでもいるみたいだな、と思った。不二も同じ事を考えているのだろう。両手を空に広げたまま、眼を瞑っている。オレも眼を瞑ると、近い未来を思い描いた。
いつか、雪化粧をしたこの道を二人並んで歩ければいいと思う。綺麗な白に足跡の平行線を描く。まあ、その頃はきっと、俺たちは受験で忙しくてそれ所じゃないだろうけれど。
「手塚っ、なに考えてるの?」
「別に、なんでも…」
ない、と続けようとして言葉が止まった。オレの頭上から降ってくる、大量の落ち葉の所為で。
「不二っ、お前…」
「あはははは。手塚、可愛い」
呆気にとられているオレに笑みを見せると、不二は背伸びをしてオレの頭や肩に引っ掛かった落ち葉を掃った。流石に頭のてっぺんは辛そうだったので、少し、屈んでやる。
「よし、っと」
誰に言うでもなく呟くと、不二は満足気に微笑った。腕を絡ませ、手を繋ぐと、オレのポケットの中にそれを入れた。オレの顔を覗き込み、また、微笑う。
「お前もついてるぞ」
オレは苦笑しながら、不二の肩や頭についている落ち葉を掃った。不二もオレが落ち葉を取りやすいようにと、身体を寄せてくる。
「ほら、終わったぞ」
「ん。ありがと」
身体をオレの腕にくっつけたまま見上げると、不二はオレの頬に唇を落とした。
「不二っ」
思わず、辺りを見回す。
「大丈夫だよ。この時間帯なら、誰もいないから」
顔を真っ赤にして慌てるオレを見て、クスクスと笑い声を上げる。オレは諦めに似た溜息をつくと、空いている左手で不二の頬を包んだ。
「なに?」
不思議そうにこちらを見る不二の唇に、オレは自分の唇を押し当てた。
「………手塚?」
唇を離すと、心なしか顔の赤い不二と、眼が合う。
「……カイロとしては丁度いい」
呟いて、咳払いをすると、オレは不二から眼をそらした。自分からした行動なのに、酷く耳が熱い事に気づく。
「手塚は体温低いからね」
オレの顔を覗き込み嬉しそうに微笑うと、不二はポケットの中の手を強く握った。
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