犠牲


「馬鹿だな、お前は」
 自分の膝の上で横になっている不二の額にかかっている髪を掻き揚げる。
「うん。」
 オレの手を探り当てると、不二は自分の唇へとあてた。その手をとり、指を絡ませる。
「平気か?」
「うん。」
 空いている方の手で、目を覆うようにして捲かれている包帯にそっと触れてみた。痛々しいその姿に、思わず顔が歪む。
 不二は、オレをかばった所為で光を失った。綺麗な顔についてしまった傷もそうだが、それよりも、オレの為にという事に罪悪感が生まれる。
 不二には何度助けられたか知れない。今度は、オレが不二を助けてやらなければ。だが、どうしたらいいのか、わからない。オレは不二に何をしてやれるのか。こんなとき、酷く無力な自分に気づく。オレにはテニスさえあればいいと思っていたが、それよりも大切なものが、今、目の前にある。
「大丈夫だよ。手術すれば視力は戻るんだから」
 オレの心の内を汲んだかのように、不二が微笑った。
「だが、角膜の提供者がいなけれ…」
「手塚。」
 オレの言葉を遮るように、不二は言った。
「大丈夫だから。」
 もう一度、優しい笑みをオレに向けた。無論、見えるのは口元だけではあるが。
 敵わない。その笑みだけでオレの中にある負の感情を全て取り去ることが出来るなんて。
 安堵の溜息が出る。
「でも…」
 突然、思い出したように、不二が呟いた。口元には笑みが浮かんだままなのに、不安げな口調。オレは繋いでいる手を強く握ると、次の言葉を待った。けれど。
「……ううん。何でもない」
 溜息混じりにいうと、不二はオレの手を握り返してきた。それを見て、今度はオレが先程とは別の溜息をつく。
「何でもないわけないだろう?」
 自分の中の不安を押し込めようとして、思わず咎めるような口調になる。
「……ごめん」
 その弱々しい声に、オレは軽い眩暈を憶えた。優しさを出そうとしても、それが上手く声として伝わらない。不二は自分へ向かってくる優しさには疎いから、視力がないだけでなく精神的にも不安定な状態にある今、オレの奥底にある感情を読み取れるはずがない。
「別に、怒っているわけではない。いいから、さっき言いかけた事を言え」
 また、咎めるような口調になってしまう。オレは自分の表現力のなさを呪った。
 けれど。今度はちゃんと不二に伝わっていたらしい。不二は小さく微笑うと、空いている方の手を空に向けて伸ばした。何かを探すように宙を掻く。その手をとり、自分の頬へとあててやる。その感触に、不二が安堵の笑みを見せた。
「傷は治るから平気だけど…」
 不二の指が、オレの頬から唇へ。ゆっくりと移動していく。
「けど?」
「淋しいんだ。…君が、見えないと。この世界に独り取り残されてしまったような気がして」
 語尾が微かに震える。オレは自分の唇に触れている不二の手を握りしめた。
 やっと、見つけた。オレが、不二にしてやれること。
「傍にいる。オレは、ずっとお前の傍にいる。何処にも行かない」
 だから。…すまない。
 オレは不二に口付けると、繋いでいる手を離した。
「……不二。オレの光を、お前にやる」





短いでスね。
元ネタは『続・星の金貨』(笑)
好きだったなぁ、ノリピー。
そう言えば小学校の頃、ノリピー語とか流行ったけど。今の小中学生はきっと知らないよね。高校生も知らないか!?

不二くんは手塚の為なら傷つく事は厭いません。

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