放棄


 この世には永遠なんてモノは存在しない。
 だから、君はきっと忘れてしまうよ。
 僕と過ごした日々を。僕を愛したことを。そして、僕自身を。

 不思議なことを言う奴だと思う。別に消えてしまうわけでもないのに…。
 オレの膝の上でいつものように寝そべっている男を見る。
「何?」
 オレの視線に気づき、不二は眼を開けると微笑った。
「いや、何でもない」
「………変なの」
 クスリと微笑うと、不二は手を伸ばした。オレの頬に優しく触れる。
「手塚。」
 名前を呼んだかと思うと、いきなり引き寄せられた。そのまま、唇を重ねられる。
「……っん」
 長い口づけ。苦しくなり身じろぐと、不二はあっさりとオレを解放した。大きく息を吸い込むオレを見て、小さく微笑う。
「不二、お前っ………」
 咎めようとして、言葉が止まった。また、だ。ふと見せる表情。遠い、視線。妙な胸騒ぎを感じて。オレは思わずその手を強く握り締めた。
「どうしたの?手塚」
 そう言って微笑う不二はいつもの表情に戻っていた。だが、オレの不安はそう簡単には消えてくれない。
「お、まえこそ、どうしたんだ?」
「ん?」
「この頃、変だぞ」
「何が?」
 何が、と訊かれて、オレはなんて答えたらいいのか戸惑った。不二の語り癖は今に始まったことじゃない。時々見せるあの表情も。
 ……どうかしているのはオレの方なのか?
 言葉を捜し、視線が右往左往する。それを見てか、不二はまたクスリと微笑った。起き上がり、オレの隣、肩に寄り添うようにして座る。
「そうだね。ちょっと可笑しいのかもしれない」
 オレの左手に右手を重ね、強く握る。オレは不二を見た。が、不二はオレを見なかった。不二は遠い所にある別の何かを見ているようだった。
「この世には永遠なんてモノはないんだよ。君もいつか僕を忘れて別の幸せを見つけてしまうだろうね」
「…何を、言っているのか良く解からないが…。何故、オレがお前を忘れなければならないんだ?そんなに忘れられるのが嫌ならずっとそばに居れば…」
「僕ね。もうすぐ死ぬんだ」
「なっ…」
 突然の告白に、オレは言葉を失った。
 ……死ぬ?不二が?
「う、そ…だろう?」
 背中を嫌な汗が流れた。震える声で問うと、不二は真剣な眼でオレを見つめた。
 無言のまま、暫く見つめ合っていた。どれくらいの時間が経ったのか解からない。長かったような気もするし、一瞬だったような気もする。先に口火を切ったのは不二だった。
「……なんてね。冗談だよ」
 言って、微笑って見せる。いつもの顔で。
「……………。」
 じょう、だん?
「っ不二!」
「あはははは。吃驚した?」
「当たり前だ!ったく。ヒトをからかうのもいい加減にしろ」
 ごめん、と手を合わせる不二に、溜息を吐いてみせる。騙されたという悔しさと。嘘であってよかったという安心感。オレは思わず苦笑した。
「まあ、お前みたいな奴がそう簡単に死ぬはずはない、か。」
 微笑うと、不二を見た。一瞬だけ、不二の顔が曇った気がした。
「……不二?」
「でもね。最近、よく見るんだ。自分が死ぬ夢」
「………。」
「僕はもう死んでて。君が直ぐそこに居るのに。手を伸ばしても触れることが出来なくて」
 ゆっくりと不二の手が伸びてきて、オレの頬に触れた。額を合わせる。哀しいくらい孤独に満ちた眼がオレを見つめる。
「君は、既に…次の幸せを見つけてるんだ。僕の事なんかすっかり忘れて。幸せそうに微笑って……っ」
 言って、不二はオレに口付けた。微かに感じたのは涙の味。
 ……泣いているのか?
 唇を離すと、不二はそのままオレを抱きしめた。だから表情を見ることは出来なかったが。微かに震える肩に、オレは察した。
「不二、大丈夫だ。オレは忘れない。何があっても、絶対」
 耳元で呟くと、不二はオレを抱きしめている腕に少しだけ力を込めた。
「…手塚。僕も。ずっと忘れない。ずっと好きだよ」
 そう言ったとき、オレの首筋に温かい雫が落ちた。
 僅かに身体を離し、その涙を舐めとる。不二は歪んだ笑みを見せると、もう一度、強くオレを抱きしめた。
「でも、君は忘れなきゃいけないよ。君は幸せになるべきヒトなんだ。いつまでも僕なんかに囚われてちゃいけないんだ」
 呟くように不二が何か言ったが、上空を飛ぶ飛行機に邪魔をされて、オレには聴き取ることが出来なかった。



 あれから数日。まさか、こんなことになるなんて。あの時は思ってもみなかったな。
 オレは宙を見上げ、微笑うと、頬を伝う雫を拭った。
 多分、きっと。オレはもう二度と、恋はしない…。





えへへ。なんだか最近不二塚は切ないね(爆死)
タイトルと内容との関係は、AZUKI七さんの『80,0』を読んでくださいな。
ってかさぁ。死にすぎだよね。しかも何か手塚ばっかし不幸だし。
いやいやいや。
アタシ、不二スキーだからさ。許して(殴)

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