風邪薬


「体調が悪いなら悪いとちゃんと言え。そんなにオレが信用できないのか?」
 慣れない手つきで林檎を剥きながら、彼が言った。僕が倒れるまで部活に出ていたことにか、なかなか食べられそうな姿を現さない林檎に対してか、彼は少しむくれて見せる。それが凄く可愛くて。僕は思わず笑い声を上げてしまった。
「何が可笑しいんだ?ったく…」
「部活はね。君に会える機会だからさ。自分では潰したくないんだよ」
 咳き込みながらも、微笑って見せた。彼はそれに少し照れたらしかったが、咳払いをするといつもの厳しい表情に戻ってしまった。
「だからと言って、次の日、学校を休んでたんじゃしょうがないだろう?」
 言うと、彼は顎で僕の机においてあるノートを指した。そのノートには、彼が英二から借りて書き写してくれた今日一日分の授業内容が書かれてある。
「あはははは。ごめんね、迷惑かけちゃって」
 微笑う僕に、彼はわざとらしく溜息をついて見せる。
「そう思うんだったら、今日はゆっくり休んで、早く風邪を治せ」
 言いながら、何とか形になった林檎を渡そうとした。けれど、素晴らしい考えを思いついた僕は、それを受け取ろうとしなかった。
「…どうした?」
 心配そうに聞いてくる彼に、僕はありったけの笑顔を見せる。
「ねぇ、手塚。それ、食べさせて」
「………は?」
「いいじゃない。僕は病人なんだから。少しくらい、甘えさせてよ」
 以前、彼が風邪を引いたときに僕はお粥を作りそれを食べさせてあげたことがあった。あの時の手塚は、珍しく僕のされるがままになってたっけ。差し出されたレンゲから、黙って粥を食べていた彼を思い出す。
「…何を、考えてるんだ?お前は」
「別に。前に君の看病をしたときのことを思い出してただけだよ」
 だから今度は君の番だよ、と微笑んで見せる。彼は困った顔をして暫く黙っていたが、しょうがない、と溜息をつくと、手に持っていた林檎を一口、かじった。
「手塚が食べてどうすっ……!?」
 突然重ねられた唇に、僕は戸惑った。彼はそんな事お構い無しに、僕の口を開けさせると、ぎこちない舌使いで軽く噛み砕いた林檎を口内へと運んだ。入りきらなかった林檎が、口元から滑り落ちる。
「……んっ。」
 唇を離すと、彼は再び林檎をかじった。
 何度かそれを繰り返し、林檎一切れを食べ終えると、彼は僕から躰を離し、自分の口元を拭った。
「……まさか君がここまでしてくれるとはね」
 息を整えながら、微笑う。
「お前が望んだことだろ?」
「まあ、そうなんだけどね」
 まさか口移しで食べさせてくれるとは、ね。たまには甘えてみるもんだな、と思う。
「……美味しかったよ」
 僕の言葉に、彼は微笑うと、僕に顔を近づけた。
「…手塚?」
「林檎、ついてるぞ」
 言いながら、僕の口元に付いている林檎を舐め取ってみせた。その彼の行為に、顔が赤くなる。いつもとは立場が逆だな、と僕は苦笑した。
 彼は立ち上がると、少し離れた所にある椅子に腰をおろした。一度だけ、咳払いをする。
「まあ、あれだ。そんなにオレに会いたいんだったら、その……部活がなくても、いつでも会ってやる、から」
 僕から視線を外し、眼鏡を直しながら言った。それが、照れている時の、彼の癖だったことを思い出す。
「……ありがとう。」
 僕は、聞こえないくらいの小さな声で呟いた。けれど、それは彼の耳に届いていたらしくて。眼鏡から手を離した彼の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。





友達が風邪を引いたので、書いて送ってみました。
…汚いとは言われなかったけど、ビミョーって言われちゃいましたよ(泣)
不二が思っている以上に不二が好きな手塚が好きです。
照れながらも積極的な手塚が。
不二はどんなであれ、好きなんですけどね(笑)

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