7月7日、晴れ


 あいたくて。
 あいたくて。
 あえなくて…。



 ベランダに飾ってある笹に、願い事を書いた短冊を吊るす。振り返って窓を見ると、カーテンレールにてるてる坊主。一時はどうなるかと思ったけど、彼のお蔭で今夜は晴れ。
 僕の家では毎年、七夕という行事をする。家族全員が願い事を書いた短冊を吊るし、次の日になったらご丁寧にも、川にその笹を流しに行く。
 子供っぽいと言われるかもしれないけれど、僕はこういう行事は凄く好き。季節や伝統を感じられるし、第一、僕はまだ子供。
 大型の連休ですら滅多に家に帰ってこない裕太も、この日だけは外泊許可を貰って帰ってくる。母さんに淋しい思いをさせたくないだとかなんだとか理由をつけて。これも、僕が行事を好きな理由の一つでも在る。滅多に会えない裕太も、この日だけは大人しく従うから。
 裕太が書く願い事は、いつも『打倒、不二周助!』で。だから僕は毎年『裕太がいつまでも可愛い弟でありますように』と書いている。裕太の願いが叶った事はないみたいだけど、僕の願いは毎年叶っている。というか叶える必要もないらしい。だって、裕太はいつでも僕の可愛い弟だから。

 けれど。今回はお互いに別々の願い事を書いた。
 裕太は次回の大会での優勝を。

 そして、僕は―――。


「君に会いたいよ。手塚」



 一年に一度、それも運任せでしか会う事の出来ない二人。彼らは辛くはないのだろうか?

 辛くは、ないのかもしれない。運任せとはいえ、一年に一度、会う事を約束されているならば。彼らはきっと、その日の為に生きることが出来る。

 でも、僕は。鳴らない電話を待ち続ける日々。彼の連絡先は知らないから、僕に出来るのは待つことしかない。
 ケータイを取り出し、着信履歴を見る。そこに現れたのは、見知らぬ数字。時刻はほんの一時間前。着信音を切っていたのは迂闊だった。この番号がなんなのか、今となっては解からない。悪戯か、間違いか、それとも…。
 画面の明かりが消える。僕は携帯を閉じると手すりに頬杖を付き、空を見上げた。去年と同じ、綺麗な星空。
 確か、去年は一緒に短冊に願い事を書いて吊るした。二人だけの、小さな笹に。彼は子供のようだと嫌がったけれど。最終的には、彼の方が楽しんでいたようだった。あの時、彼と一緒に書いた願いは何だっけ…?
 ああ。思い出した。
「『目指せ、全国制覇』」
 彼が書いた願い事。きっとこれは、今年、叶う。ただ、願い事をした本人が不在という皮肉な結果になるだろうけど。まあ、それでも良いか。願いが叶うのだから。
 去年書いた僕の願いは『手塚とずっと一緒にいたい』。
 永遠なんてないから。叶うわけないって、初めから解かっていたけれど。だからって、こんなに早く離れ離れにならなくてもいいのに。


 彼も今、僕と同じようにこうして星空を眺めているのだろうか?
 そうだったらいい。僕と同じ気持ちで、この空を眺めていてくれたら。そして思い出して。去年の出来事を。僕と過ごした七夕を。
 それだけで。君の居ない明日をやり過ごせそうな気がする。
 明日も、君を想う勇気になるから。


 空を見上げ、深呼吸をする。風が鳴り、笹の葉を揺らした。
 横目で見る、短冊に在る自分の文字。僕のかなえたいたったひとつの願い。

 携帯電話を開き、着信履歴を見る。
 知らない番号。僅かな可能性。
 でも。
 もし、今夜、願い事が叶うなら。行く先は一つ。



 あいたくて。
 あいたくて。
 あいたくて…。





DREAMS COME TRUE 好きです。フツーに。勿論CDは中古で買っているので、新しいのは持っていませんがι
前半、周裕くさいのは、色々わけありでして。それはそれでまた別の話を(笑)
九州、か。遠いね。

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