Hijack brand new days


 雲ひとつない空。こんな日は、屋上でぼんやりとその青を眺めるに限る。耳元を掠めて行く五月の風が、夏を感じさせてくれる。
 このまま、夏がやってくればいいのに。
 けれど、神様ってヤツは意地悪で。こんな素敵な日々の後には、じめじめとした梅雨を用意してくれている。
 雨自体は嫌いじゃないけど。それに伴ってやってくる湿気は、結構苦手。
 天気も人間も人生も、カラッとしたものがいい。冬の寒さだって、関東で感じるようなものじゃなく、北国、殊に北海道なんかのカラッとした寒さがいい。
 フェイドアウトよりはブレイクして終わる。後腐れはなくすっぱりさっぱりと。
 でも、きっと。梅雨がくるから、今の季節が輝いて見えるんだろうな、なんても思う。だってこのまま夏になっちゃったら、いつ夏になったのかわからないし、単調な天気にきっと厭きてしまうだろから。
 また、風が髪をさらう。
「うーん。きっもちいい…」
 伸びをすると、そのまま仰向けになった。今にも届きそうな青空。でも、絶対に届かないって理解ってるから。きっと、憬れる。
 彼も、そんな存在だったのかもしれない。僕には絶対に手の届かない存在。だから、憬れた。けれど。ここからが彼の特別な所で。彼を手に入れたいまでも、僕は彼に憬れている。届いても、届かなくても。結局、綺麗なものは綺麗なんだ。
 不図、視界に入った腕時計。屋上には当然、時計なんてないから。気にも止めなかったけど。
「5時間目、そろそろ終わっちゃうなぁ」
 自習だった5時間目だけサボって6時間目の授業は出る予定だった。でも、こんなに早く時間がくるなんて思わなかった。
 幸せな時間は、どうして早く過ぎてしまうのだろう?一定のリズムを刻んでいるはずなのに、感じ方が違うなんて酷すぎる。それとも、僕の時計が、狂ってるだけ?
 どっちにしたって、神様は意地悪だ。ま、この世に神様がいるのかどうかは疑わしいところだけど。
 ……でも、神様がいるとするなら、天使はきっと彼なんじゃないかって思う。だって僕には、彼の背中に翼が見える。
「……手塚。」
 僕の天使。僕だけの。
 どうせなら、彼と一緒にこの青空を見たかったな。そんなこと無理だって理解ってるけど。
 彼の中に在る時計は、僕のそれとは反対にずっと正確で。休むこと無く、変わること無く動き続けているから。
「勿体無いな、こんなに綺麗な空なのに」
 腕時計を外し、胸ポケットにしまう。変わらないのなら、せめて。彼の時計も、こうして見えなくしてしまえればいいのに。
「あーあ。何か面倒臭くなっちゃったなぁ。このまま――」
「6時間目もサボるつもりか?」
「っ!?」
 突然聴こえた声に驚いて、僕は体を起こした。振り返ると、顔だけを覗かせている、彼。
「……手塚。何でここに?」
「5時間目が早く終わったのでな」
 梯子を登ると、彼は僕の隣に座った。よく理解らないけど、彼が手招きをするので、僕はその膝に甘える事にした。彼の、ひんやりとした手を握る。
「そうじゃなくってさ。何で君がこの屋上に来たのかって事」
 見上げる。彼は僕から眼をそらすと、宙を仰いだ。僕も、空を見る。
「綺麗な空だな」
「うん」
「雲ひとつない」
「うん」
 そのまま黙って空を見つめる。静かな空間。
 この位置だと、僕の視界には彼と青空しか眼に入らないから。この空間が青の中に切りとられてぽっかりと浮かんでいるようだ。
「………何となく」
 呟くと、彼は僕を見つめた。彼の背に遮られて解からなかったが、その代わりに、揺れる彼の髪が、僕に爽やかな風を感じさせてくれた。
 彼が、僕の手を強く握る。
「お前がここにいるような気がした」
 少しだけ顔を赤くすると、彼は僕から眼をそらした。その仕草が可愛くて。
「手塚…」
 僕は体を起こすと、その唇に触れた。その瞬間、僕の中でずっと燻っていた想いが溢れ出してきて。
「会いたかった」
 僕は彼を強く抱き締めると、そのまま全体重を預けた。
「……今朝、会ったばかりだろう?」
「それでも、会いたかったんだよ」
 抵抗されるかとも思ったけど。予想に反して、彼は大人しくコンクリートに背をつけた。真っ直ぐな眼で、僕を見上げる。
 彼が天使なら。空を飛んでいるはずのその天使を地上へと押し付ける僕は、一体、何者?
 なんて考えていると、遠くで授業終了を知らせるチャイムが聴こえてきた。その音が、一瞬にして僕を学校の屋上というリアルに引き戻した。
「………5時間目、終わっちゃったね」
 クスリと微笑い、額にかかる髪を掻き揚げると、そこに唇を落とした。
「たまには、こういうのも悪くない」
 ふ、と彼が笑みを溢す。その手が、僕の頬を包んだ。唇を重ねる。
「たまには、ね」
 呟くと、僕は彼の隣に横になった。空を見上げる。
「……不二?」
「『たまには』でしょ?それとも、君は『いつも通り』をお望みかい?」
 不思議そうに僕を見つめる彼に、僕は微笑ってみせた。途端に、彼の顔が赤くなる。
「………好きにしろ、馬鹿。」
 眼をそらすように、彼が空を見上げるから。僕はもっと寄り添うと、彼と同じように空を見上げた。右手には、もちろん、彼の左手。
 永遠に続きそうな時間と空間。でも、僕は知ってる。『ずっと』なんて言葉は、この世には存在しないってこと。だから。
「明日も、こうして一緒にいようね」
 ぼんやりと、空に向かって呟く。それを聴き取ってくれたのかは解からないけど。彼は僕の手をほんの少しだけ強く握り返した。





♪はいじゃっくみーとぅーぶらんにゅーでぇぇいず
 ふぉーろーみーあいるしょーゆーはう♪

つぅわけで、the★tamburinesで『Hijack brand new days』でした。
ええ曲や。何で売れないんだろうι
つぅか、アタシの話の不二くんはサボり魔だなぁ。手塚もι

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