ずっと、傍に居て欲しい。



 まだ朦朧としたままの意識。天井を見上げるオレに、横から手が伸びてきた。温かいそれに、強く抱きしめられる。
「ね、怒ってる?」
 耳元に息を吹きかけられる。少し、動揺したが。オレはそれを隠し、天井を見上げたまま黙っていた。
「……やっぱり、怒ってるんだ」
 何のリアクションも起こさないことを肯定と取ったらしい。呟いてオレの上に乗ると、視界に無理やり入ってきた。唇が重なる。
「…呆れているだけだ」
 自由になった口で、オレは溜息まじりに呟いた。不二はオレの言葉に満足げに微笑うと、体を移動させた。オレの胸に耳を当て、そのまま体重を預ける。
「手塚。まだドキドキしてるよ?」
「五月蝿い」
 呟くと、オレはその柔らかな髪を指で梳いた。胸元でクスクスと笑い声が聴こえる。
 溜息、ひとつ。
 今日は無断外泊だ。一応、不二の家で夕食をご馳走になると連絡はしておいたから、大丈夫だとは思うが。
 何故、こんなことになってしまったのだろうと考えると、いつも自己嫌悪に陥る。オレは、不二を拒否することが出来ない。どうしても。もしかしたら、その気がないからなのかもしれないが。
 不二はズルいと思う。オレはとっくに不二のモノになっているのに、決して不二はオレのモノになってくれない。独占してくれることは嫌いじゃないけど、たまにはオレだって不二を独占したい。
「……ねぇ、手塚?」
 突然、胸元から声がした。かかる吐息に、鎮まったはずの熱が、再び燻り始めるのを感じる。
「な、んだ?」
 オレの動揺を悟ったのか、クスクスと笑い声を上げると、不二は体を離した。胸元から温もりが消えるかわりに、唇に温もりが宿る。
「何で僕がこんな強引なことをしたか、理解る?」
「……さぁな。強引なのは、いつものことだろう?」
「そう?いつもは君だって求めてくるじゃない。……あ。今回もそうか」
「五月蝿い」
 クスリと微笑う。オレは不二の頬を掴むと、自分から口付けた。
「…で。結局、何故なんだ?」
「んー。ちょっと待って…」
 問いかけるオレに、不二は体を離した。ベッドサイドに手を伸ばす。
「さん、に、いち…」
 ぜろ、というのと同時に、不二は時計を自分の顔の隣に持ってきた。そこには午前零時を差している時計の針。
「誕生日、おめでとう」
 時計を見つめはてなを浮かべてるオレに、クスリと微笑うと、不二は唇を重ねてきた。
「……どういうことだ?」
「日付、変わったから。今日は10月7日。手塚国光の誕生日だよ」
 オレを抱きしめ、クスクスと微笑う。自分の誕生日くらい憶えとかなきゃ駄目だよ、と。
「お祝い、したかったからさ」
「……だったら別に、明日でも…」
「駄目だよ。明日は家族の皆に祝ってもらわなきゃ」
「……別に学校でも…」
「でも、本当はそんなことどうでもいいんだ。僕は、イチバンに『おめでとう』を届けたかったんだよ」
 オレを見つめ、優しく微笑う。その笑顔に、自分の顔が赤くなっていくのを感じて。オレは思わず顔を逸らした。それをいいことに、不二が耳元で微笑う。
「ね、何か欲しいもの、ない?無断外泊のお詫びに、少しくらいなら無茶きいてあげるから、さ」
 わざと息を吹きかけるようにして話す。オレは不二の顔を遠ざけると、その眼を見つめた。
「ん?」
 何かない?と急かされる。
 何も無いわけではない。欲しいものはいつも、1つだけ。届きそうで、届かないもの。
「本当に、無茶をきいてくれるのか?」
「うん。僕に出来る範囲なら、ね」
「……お前にしか出来ないことだ」
 顔を逸らし、一度だけ咳払いをした。再び、不二を見つめる。
「不二周助が、欲しい」
「―――え?」
 訊き返されたことに、もの凄く恥ずかしくなってしまって。オレはまた、顔を逸らした。暫くの沈黙の後、不二がクスリと微笑った。
「それは、出来ないなぁ」
 愉しそうに呟き、オレの顎を掴む。無理やりに不二のほうを向けさせられ、唇を重ねた。
「何故?」
「んー。知りたい?」
「別に知りたくなど…」
「だって、もう既に僕は君のモノだもの」
 オレの言葉を遮るようにして言うと、クスリと微笑いもう一度口付けてきた。
「だから、それは出来ないかな。ごめんね」
 不二の言葉に、何て、返事をすればいいのか分からなくなってしまった。
 ……不二は既にオレのモノ?
「ね、他には?」
 まだ、頭の中を整理しきれていないオレに、不二は再び訊いてきた。
 他に…オレは何が欲しい?
 不二の今の言葉が嘘じゃないのだとすると、オレがずっと欲しかったものは、既に手に入れたことになる。だったら、他には何も要らない…?
「ないの?」
 少し淋しそうに、不二が問う。オレは軽く咳払いをした。
「じゃあ…」
 呟いて、不二を抱き寄せ、耳元で囁く。
「………駄目か?」
「ううん。駄目じゃないよ」
 見上げるオレに、不二は嬉しそうに微笑うと、オレを強く抱きしめた。
「手塚。誕生日、おめでとう」
 全身を包む優しい温もりの中、オレはゆっくりと眼を閉じた。





♪午前0時を過ぎたら イチバンに届けよう
 Happy birthday, Happy birthday,
 Happy birthday to you♪

誕生日ソングって言ったら、これだよね。
Dreams Come Trueの『HAPPY HAPPY BIRTHDAY』。

エロに行きそうで行く勇気の無かったアタシをお許しください(笑)

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