Syunikiss


 誰でもいい。オレの願いを叶えて…。

 明け方。人の気配がして、オレは眼を醒ました。不思議に思いながらも、ゆっくりと身体を起こす。今は冬。ベッドから出ると、寒さが襲ってきた。オレは掛けてあった上着を羽織ると、足音を殺し、ゆっくりと気配のするリビングへと向かった。
 すりガラスの向こう。確かに見える、人影。普通ならその人影を不審に思ったり怖いと感じたりする筈なんだろうけれど。不思議とそんな感情は浮かばなかった。ただ、早く、このドアを開けなければいけないような気がして…。
 オレは、深呼吸をすると、勢いよくドアを開けた。
「………ぁ。」
 眼に映る、人間に、オレは言葉をなくした。
 音も立てずに揺れるロッキングチェア。眼に痛いほどの陽射しを浴びながら座っているのは、紛れもなく…
「不二。」
 オレがその名を呼ぶと、彼はゆっくりとこちらを向いた。オレの姿を確認すると、記憶の中の彼と同じ笑顔を見せた。
 これは、夢、なのか?
 何度も目を擦ってみたけれど、その姿は色褪せることは無く、そこに在る。オレは彼に駆け寄ると、その手に触れた。
 ……温かい。
 自然と、涙が溢れてくる。オレは彼を抱きしめると、口付けを交わした。憶えている、唇の感触。変わらない。何も、変わっていない。そう、思った。だが。
「………不二?」
 微かな違和感。唇を離し、額を合わせると、彼はいつもと同じように微笑う。けれど、やはり、何かが違う。
 肩を掴み、じっとその眼を見つめる。彼も、オレを見つめ返した。と同時に気付く、違和感の正体。彼の眼には、光がなかった。
 彼に再び逢えた嬉しさに浮かれていたのだろうか。こんなことに、気付かなかったなんて。オレの好きだった蒼い眼は、何処にも、ない。
「不二。」
 名前を呼ぶと、オレを見て微笑う。けれど、それは単なる反応でしかないようだった。光のない、虚ろな目が、彼には感情というものが欠落していることを告げる。
 オレは震える指で、そっと彼の頬をなぞった。やはり、温かい。彼は、生きている。なのに…。
「心を…不二に、心を戻してやってくれ…」
 呟くと、絶望にも似た気持ちで、彼を抱きしめた。

 あれから数日。オレの生活には、大した変化はなかった。不二はあの日から、オレの目の前に現れた日からずっと、何も口にしていない。ただ、ロッキングチェアに座り、ぼんやりと窓の外の景色を眺めているだけで。睡眠も、とっていないようだった。
 彼は、殆んど動こうとしなかった。オレが名を呼んでやると、振り向き微笑う以外に。だが、それでも不思議と、存在感だけは在った。多分、それは生まれ持っての彼の体質なのだろう。
 ただ、時々。彼は震える声である言葉を繰り返すことがあった。ある、言葉。彼の最期に、オレが叫んだ言葉…。
 淋しそうに。哀しそうに。空を見上げ、届くはずもない蒼に手を伸ばし、彼は呟く。それを見る度に、彼の震える声を聞く度に、オレの心は締め付けられるようだった。思い出したくも無い光景が、脳裏に浮かぶ。
 彼は、一体、何の為にオレの元へと戻って来たのか。
 もし、本当に、オレの願いを誰かが叶えてくれたとするのならば…。
「不二。お前は、今、幸せなのか?」
 問い掛けてみるけれど。彼はただ、微笑むだけだった。感情のない、笑み。
 多分、これはオレひとりが望んでいたことで。彼は望んでいなかったのではないのだろうか。だから、彼は…。
 だとするならば。オレが、彼にしてやれることは、ただ、ひとつ。
 オレは彼をきつく抱きしめると、耳元で、ごめん、と囁いた。
 身体を離し、彼を見る。何故か、その眼からは涙が流れていて。オレは冷たい指で彼の頬をなぞり、涙をふき取った。深呼吸をし、空に祈る。
「不二を安らかに眠らせて。空に、帰してやってくれ…」
 誰に、というわけでもなく呟くと、オレは眼を閉じ、彼と最期の口付けを交わす。
 ありがとう。そう聞こえた気がして。
 オレは眼を開けた。けれど、目の前には…音もなく揺れる、ロッキングチェアだけだった。





Gackt時代のマリスの曲です。アルバム2曲目。
ストーリーはそのまんまですな(笑)
友達には、塚不二に見えるといわれましたが。
アタシ的には不二塚です(笑)
この二人、役割は逆でも良かったんですけどね。それだと、不二が切ないから(爆死)

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