アツイナミダ
「……今年の花火は、これで最後かな」
 最後の線香花火をバケツへと放ると、僕は呟いた。でも、返事がない。見ると、彼の手にはまだ線香花火があった。満月を作り、火花を散らしている。少しでも助けになればと、僕は風上に周り、しゃがんだ。オレンジ色の光を反射する、真剣な彼の眼を見つめる。
「……何故、最後だと?」
 散らす命の欠片が細い線になった頃、彼は言った。それでも、相変わらず僕を見ない。
 早すぎる、花火。去年は八月の頭頃に二人でやったと思う。でも今はまだ六月。季節外れ、になるのかもしれない。それでも。蚊取り線香と並んで花火が置いてあるのだから、それなりの需要はあるのだろう。
「いつ帰ってくるの?」
「………分からん。だが、夏が本格的になるまでには帰って来たいと思っている」
 彼が顔を上げ、僕を見つめた。途端、辺りが真っ暗になった。線香花火の寿命が尽きたのだ。手塚がバケツへと線香花火を放る。
 ロウソクは使わず、ライターで火を点けていたから、花火がなくなってしまった今、他に明かりがない。
「手塚」
「……何だ?」
「キス、していい」
「………好きにしろ」
 僕は夜目が利くほうだからいいけど。彼は鳥目だから。探るようにして、僕の腕を掴んできた。指を絡め、唇を重ねる。
「君が無茶をしなきゃ、早く帰って来れるだろうけどね」
 そんなのはきっと無理だよ。君は、僕が見てないと直ぐ無茶をするから。
「僕よりテニスだもんね」
 呟いて、微笑う。けれど、多分、彼の眼には映っていないだろう。鳥目だし。鈍いし。
「あまりオレを見くびるなよ」
「えっ……」
 彼に、腕を引っ張られた。と思ったら、唇が触れ合っていた。そのまま、不自然な格好で抱きしめられる。
「オレはそんなに強く無い。お前がいないと駄目なんだ…」
 耳元で。切なげな声で言う。何か返そうと思ったけど、言葉が出てこなくて。僕は彼の背に腕を回すと、強く抱き返した。途端、一筋の涙が頬を伝った。
 哀しいわけじゃないのに、何故…?
「だから、オレはすぐに戻ってくる。別れの余韻に浸る暇も無いほど早く」
 ああ。そうか。
「手塚…」
 呟くと、僕は彼を押し倒した。掌に、冷たい土の感触。見下ろすと、彼が心配そうな顔で僕を見つめているのが分かった。嬉しくて。また、滴が落ちる。
「……不二。泣いて、いるのか?」
「知らなかった。嬉しくても、涙が出るんだね」




不二塚本『dizzy season』用に書いたんだけど。
出来上がってから曲を聴いたら、あまりマッチしてなかったようなので。
しっかり書いての没って辛いよねι


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