気配
 オレがベンチに座ると、不二は鍵をかけ電気を消した。オレの前に立ち、不敵に微笑う。直ぐ後ろにある窓から入ってくる月光で、その眼は、更に深さを増していた。
「手塚」
 二人きりのときにしか使わない、優しすぎる声色。不二はオレの頬にそっと触れると、そのまま唇を重ねてきた。深く、侵入してくる。
「……んっ」
 唇を重ねたままで、不二はオレのシャツのボタンを外し始めた。冷たい壁にオレを押し付け、それとは反対の温かい指がオレの胸に触れる。
「ぁ」
 敏感な所に触れるたび、オレの口から甘い声が漏れる。だが、口付けはまだ続いているから、その殆んどが不二に吸い取られていた。その代わりに、上手く飲み込めなかった唾液が、口の端を伝う。
 オレの息が完全に上がったところで、不二は唇を離した。首筋に向かおうとするのを拒むように、オレは不二の頬を掴むと、自分から口付けた。一瞬、戸惑ったように不二の動きが止まったが、喉の奥で微笑うと、またオレの口内に侵入してきた。それと同時に、不二の指が下へと移動する。
 唇と指先しか不二の体温を感じられないのが嫌で、オレは頬を包んでいた手を離すと、不二のシャツのボタンに手をかけた。途端、唇が離れ、不二の動きが止まった。
「不二?」
「しっ」
 見上げるオレに、不二は人差し指をピンと立てると、オレの唇に押し当てた。その行動が何を意味しているのか気づいたオレは、呼吸を整えると、耳を済ませた。壁の向こうで人の気配がする。
「大丈夫。今日の当番は鍵を開けてわざわざ調べたりしないから」
「……だから、誘ったのだろう?」
 囁くような不二の声に、オレも囁きで返した。満足げに、不二が微笑う。
 電気を消し、鍵をかけていれば、大抵の教員はこの部室には誰も居ないと判断する。ごく稀に、鍵を開けて誰も居ないかを確認する教員も居るが、そういう日は、オレたちは仕方がなく真っ直ぐ家へ帰る事にしている。無論、家には人が居るから、こういった事はお預けだ。
 テストなどの所為もあり、一週間ぶりに不二とできる。気配を消して教員をやり過ごさなければならないのは解かるが、中途半端なままでいるというのは、正直、辛い。
「手塚。声、出しちゃ駄目だよ?」
「え……っん」
 それはどうやら不二も同じだったようだ。オレの唇に押し当てていた指を頬へとずらすと、代わりに自分の唇を押し当ててきた。先程よりも激しく、口内を犯してくる。物音が立たないようにしている所為で、部室には湿った音が響いている。耳を澄ますと、足音は直ぐそこまで近づいて来ていた。
 ドアの前で、足音が止まる。
「……っ!?」
 ガチャガチャとドアノブを回す音がするのとほぼ同時に、不二はオレから唇を離すと、直に触れてきた。思わず、声を上げそうになる。それをどうにか堪えると、不二は口の端を吊り上げて微笑い、更に刺激を与えてきた。
 ……教員の気配はまだそこにある。
 オレは声が漏れないようにと、両手を不二の首に回すと、自分から深く口付けた。喉の奥で、不二が微笑う。それでも構わずに、オレは自分から不二を求めた。
 暫くして、教員の気配が完全になくなると、オレは不二から唇を離した。不二も、オレから手を離す。
「よく、我慢できたね。溜まってる筈なのに」
 緊張から解放された所為で、口の端から唾液を垂らしたままだらしなく壁にもたれているオレを見て、不二はクスクスと微笑った。口元を伝っているものを拭うように、舌を這わせてくる。
「それは、お前だろう?」
 体を離した不二に言うと、オレは不二のそこを指差した。そうかもね、と微笑う。
「それに、オレは我慢などしていない」
 隣に座った不二に呟くと、オレは立ち上がった。不思議そうに見つめる不二に、見慣れている、慣れない笑みを返す。
「確かに、声は出さなかったが。不二を我慢する事は、していない」
 不二の膝に、向かい合うようにして座ると、オレはまた自分からキスをした。
「……そう」
 嬉しさを隠すような声で呟くと、不二は続きを促すようにオレに触れた。



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