コトノハ |
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「ねぇ、手塚。僕のこと、好き?」 「……また、それか」 ノートから顔を上げると、オレはうんざりした調子で言った。不二は頬杖を付いてオレを見つめている。 「僕は好きだよ。手塚のこと。ね、手塚は?僕のこと好き?」 「ああ」 毎日のように繰り返される言葉。オレはノートに眼を移しながら答えた。 と。視界に白い手が映り、それにオレはシャーペンを奪われてしまった。 「不二?」 「じゃあ、言って」 顔を上げたオレに、真剣な不二の視線が刺さる。 「何をだ?」 「僕のこと、好きって」 「………何故だ?」 オレの気持ちを知っているのなら、別にそんなことを言わなくてもいいだろう。オレは目線をそらすと、小さな溜息をついた。 「だって、僕、手塚から一度も好きだって言葉聞いてないよ」 淋しそうな物言いに、オレは視線を不二に戻した。不二はもう、オレを見てはいなかった。手元にある参考書を、見るともなくめくっていた。 「……言わなくても理解っているのだから、別にいいだろう」 呟いて机に置かれていたシャーペンを手に取り、勉強を再開する。何か反論してくると思ったが、意外にも不二はそのまま黙って勉強を再開した。 怖いくらいの、沈黙。カリカリと書く音だけが妙に部屋に響く。 好き、と言ってやればよかったのだろうか? 目線だけで見る、俯いた不二の表情は、淋しそうにも怒っているようにも忘れているようにも見えた。 ……きっと、忘れているのだろう。時々、こうして発作的に訊いてくるが、結局オレが好きだと言う前にその話題は不二によって切り上げられてしまう。今回も、きっとそのパターンだ。 不二には振り回されてばかりだな。きっと、オレが今こうして葛藤していることなんて知らないだろう。 溜息が出る。 と、それを合図にしたかのように、不二の手が止まった。 「……ねぇ、知ってる?」 不二の言葉に顔を上げたオレに目線を合わせず、呟く。 「無言でいることって、嘘を吐いてることと大差ないんだよ」 「……何故嘘を吐いていることになるんだ?」 「じゃあ、何で言ってくれないの?」 強い口調で言うと、不二は顔を上げ、オレを見つめた。 「……恥ずかしい、だろう」 「じゃあ、その程度の気持ちだってことだよ。そんなの、嘘と同じ。僕はこんなに君が好きだって言ってるのに」 責めるような不二の視線から逃れるように、オレは顔を背けた。 何故、好きと言わなければ嘘を吐いていることになる?互いの気持ちは理解っている。それではいけないのか? 第一、そんなこと恥ずかしげもなく言えるのは不二くらいだ。 「ねぇ、手塚ってば」 ああ、もう。しつこい。 「お、まえは、簡単に言いすぎなんだ。そんなだと逆に信憑性が薄れるぞ」 迫ってくる不二の額を押しながら、オレは言った。額に当てられた手を見つめ暫く黙り込んでいたが、真剣な眼でオレを見つめると、不二はその手を掴んだ。 「…だって」 指を絡め、思い切り手を引く。避ける間もなく、不二の唇がオレのそれに重なった。 「……っん…」 それはいつもしているものではなく、深いものだった。不二の舌が歯列を割って口内へと入り込んでくる。いつもと違う刺激に、オレの体は過敏に反応した。何かを掴んでいないと可笑しくなってしまいそうで。オレは繋がれた手を、強く強く握った。 もう、息が続かないと思った頃、不二がやっとのことで唇を開放してくれた。急激に与えられた酸素に、激しく咳き込む。 「ほら、そうやって」 口元を伝うものを何度も拭うオレを見て少し淋しそうに言うと、不二は自嘲気味に微笑った。 「行動で示そうとすると、君はそうやって嫌がるでしょ?だから、言葉で示してるんだよ」 クスクスと声を上げて笑う。けれど、オレはそれが無理に作った笑いに見えて。思わず、顔を背けた。 「…ごめんね、もうしないよ。君に強要したりもしないから」 顔を背けたのをマイナスの方向に受け取ったらしい。不二は優しい口調で言うと、勉強道具をバッグにしまい始めた。 「もう遅いし。僕、そろそろ帰るね」 ……このまま、何も変わらないままでオレは不二を帰してしまうのか? 「…つに」 「え?」 「別に、さっきのが嫌だったわけじゃない。あまりに突然だったから、驚いただけだ」 「……さっきのって?」 オレの言葉が見えないのか、不二は座りなおすと、オレをしっかりと見つめた。その眼に、顔が赤くなる。だが、ここまで来て、眼を逸らすわけにもいかない。 「だから、その…」 だからと言って、好き、の一言も言えないオレが、上手く説明できるはずもない。 ……………。 「不二っ」 両手で不二の肩をしっかりと掴む。オレは眼を瞑ると、不二の唇に自分のそれを押し当てた。 「……好きだ」 唇を離し、呟くような声でそれだけを告げると、オレは不二から手を離した。恥ずかしさで、顔を上げられない。不二が今、どんな表情をしているのか、分からない。 「……手塚」 優しい声。不二はオレの額に掛かる髪を掻き揚げ、そこに唇を落とすと、微笑った。 「ありがと」 いつもの、オレの大好きな表情で。 |
なんか、3ヶ月も前に書いたみたいです。 ♪無言でいることも嘘も同じ♪(GARNET CROW『Please, forgive me』) のフレーズから作られた話でした。 |
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