風邪薬・2 |
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「体調悪いんだったらちゃんと言ってくれないと」 不二は、持ってきた林檎を器用な手つきで切り分け、言った。 「ごめんね、手塚。僕が君の異変に気付いてあげられてたら…」 俯き、顔を曇らせる。何故、不二が責任を感じているのかは解からないが、その顔にオレは自分の胸が痛むのを感じた。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。 「お前の所為じゃない」 「僕の所為だよ」 「何故?現にお前はオレが体調悪いのに気付いていただろう?」 「……何か遭ってからじゃ、遅いんだよ」 「………。」 本当に、わけの解からない奴だと思う。オレが倒れるまで部活に出ていたのは事実だが、不二はその間、ずっとオレの体調を気遣ってくれていた。それを無視したのはオレなのに。自業自得。そう言われても仕方がないはずなのに。何故、こんなに淋しそうな顔をする? 「君はいつも限界まで無理をするから。本当はここ何日か、ずっと体調が悪かったんでしょ?」 「……それは、そうだが」 「僕はもっと早く君の異変に気付くべきだったんだ」 「お前が気に病むことはない。部活へはオレが行きたくて行ってたんだ」 なんとか、いつもの不二に戻って貰おうと、言ってみる。だが、不二は依然として俯いたまま。溜息を吐く。 「テニスが好きなのは解かるけどさ。無理して、今日学校休んでたら、意味ないよ」 「違う。そうじゃ、ない。」 別にテニスが好きで部活に行っているわけじゃない。 「オレは。お前に会いたくて。会いたい、から。だから…」 だから、無理をしてでも、部活に出たいと思う。 「手塚…」 オレの意思が伝わったのか、奴は顔を上げると、真剣な眼でオレを見た。手を差し出し、ゆっくりとオレの頬に触れる。その所為なのか、風邪の所為なのか、オレは自分の鼓動が速くなるのを感じた。 「会えるよ。いつでも。君が会いたいって想うなら。僕はどんな時でも、何処にいても、君に会いに行く」 言い終えると、不二はいつものように微笑った。その笑顔にオレは安堵感を得ると同時に、自分の頬が高揚していくのが解かった。それがバレるのが嫌で、急いで毛布で顔を覆う。けれど、そんなことは無意味だったらしい。 「照れないで。顔、見せてよ」 クスクスと笑うと、不二はオレの手から毛布をとった。眼が合うと、不二は優しく微笑った。 「ああ、そうだ。ねぇ、手塚。折角だから、林檎、僕が食べさせてあげるよ」 既に剥き終えた林檎を手にとり、オレの前に差し出す。 「別に。自分で食べられる」 言って、その林檎を取ろうとしたが… 「ダーメ。手塚は病人なんだから。たまには、甘えてよ」 あっさりと、却下されてしまう。甘えろ、と言われても。オレにはどうしたらいいのか解からない。 「だからさ。僕が食べさせてあげるから」 戸惑うオレに、愉しそうに微笑いながら、奴は言った。 「とは、いっても、だな。」 「いいから。ねっ。ほら、手塚。あーん、して。」 「………。」 まるで子供のおままごとだな、とオレは苦笑した。まあ、たまにはこういうのもいいか。小さく溜息を吐くと、オレは多少躊躇いながらも、口を開けた。それが間違いだったと気付いたときには、既に手遅れだったが。 言われるままに口を開けたオレを見て、不二は意味深に微笑うと、持っていた林檎を一口、齧った。何が起きているの解からないでいるオレの頬を優しく包むと、そのまま唇を重ねる。 「っん………。」 突然の口付けに、オレは戸惑った。が、不二はそんな事お構い無しに、慣れた動きで噛み砕いた林檎をオレの口内へと運んだ。口端から漏れた林檎が唾液と混ざり、首筋を伝う。 「………はぁっ。ん。」 唇を離すと、不二はもう一度林檎を齧り、口付けた。 何度かそれを繰り返し、手に持っていた林檎がなくなると、不二はオレから躰を離した。 「どう?たまには甘えてみるのも良いでしょう?」 息を整えながら、不二が微笑う。 「これを世間では甘えると言うのか?」 「君が早く良くなるように。おまじない、だよ」 言うと、不二は再びオレに顔を近づけた。口元から零れ落ちていた林檎を舌で掬い取る。 「美味しかったでしょう?」 その問いにオレが無言で頷と、満足そうに不二は微笑った。 溜息を、ひとつ。気がつくと、いつも不二のペースにはめられている。別に、それは悪くはない。が、多少、癪だとも思う。だから。 「……不二。」 オレは思いついたように名を呼ぶと、不二の服を掴み、強引に自分の方に引き寄せた。驚いている不二をそのままに、その口元についている林檎を舐め取り、唇を重ねる。 「て、づか?」 「……オレがいなくても、淋しくないように。まじないだ」 早口でそれだけを言うと、大急ぎで毛布を被った。馬鹿なことに、オレは、自分のした行為に赤面していた。 |
ごめ…これ書いたの一年半以上前ι 『風邪薬』の不二と手塚逆ヴァージョン。 文章が若いなぁ…。え?大して変わってないって?( ̄□ ̄;)!! |
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