Magic Time
 彼を起こさないように体の向きを変えると、ベッドサイドに置いてある懐中時計を開けた。チクタクと正確な時間を刻むそれに耳を当て、眼を瞑る。
 子供の頃、眠れないときはいつもこうして時間を聴いていた。
 耳障りではないけれど、決して心地良いとはいえないその音は、そのうちに僕の意識の奥深くで鳴り響いてきて。気がつくと、僕は懐中時計を手に持ったまま眠りについていたものだった。
「でも、この魔法はもう効かないな」
 呟いて、苦笑する。懐中時計の蓋を閉めると、それを元の場所に置いた。体の向きを、彼と向かい合うように戻す。
「眠れないのか?」
「……手塚」
 言葉のあとで、彼がゆっくりと目を開けた。僕の目を見つめ、少し心配そうに眉間に皺を寄せる。
「ごめん、起こしちゃった?」
「別に」
 本当は眠いだろうに。欠伸を噛み殺したようないい方に、僕は苦笑した。
「懐中時計なんて、持っていたのか」
「まぁ、眠るときにしか使わないけどね」
「?」
「オマジナイだよ。秒針の音を聴いてると、よく眠れたんだ」
 手を伸ばし懐中時計を再び手にすると、僕の温もりがまだ微かに残ってるそれを彼に渡した。
「ほら」
 懐中時計を開けてやり、彼の耳に当てる。彼は暫くそれを聴いていたが、眉間の皺を更に深くすると、僕に時計を返した。
「……こんな音で、眠れるのか?」
「昔は、ね。でも、今はもう無理かな」
 僕の体温だけでなく、彼のそれまで宿した懐中時計。その温もりを確かめるように一度だけ強く握ると、ベッドサイドに置いた。
「何故?」
「だって…」
 言いかけて微笑うと、僕は彼に触れるだけのキスをした。その肩を掴み、彼の上になるようにして体の位置を変える。
「不二?」
「懐中時計よりも安らぐ音を手に入れたから。その魔法は今は効かないんだ」
 彼の体を指先でなぞり、その胸に耳を当てる。聴こえてくる、規則的で心地良い音。彼の、鼓動。
「これが今の魔法。ほら、トクントクンって。……ああ、もしかして照れてる?」
 トクントクンから、トクトクに変わったよ?
 耳を離し、彼の顔を覗き込む。うるさい、と呟いて僕から目をそらした彼の頬は、案の定、朱色に染まっていた。クスリと微笑い、その頬に唇を落とす。
「だったら」
 その言葉と共に、僕は彼に抱き締められた。耳元に、彼の吐息を感じる。
「っ手塚?」
「オレの魔法は不二の体温だな」
 彼の突然の行動に硬直している僕に囁くと、彼は小さく欠伸をした。




マイラバです。1stアルバムの1曲目。つっても、雰囲気は全然違うけどね。
時計の秒針って、精神が落ち着いているときには心地良いけど、イラついてるときは耳障りだよね。
心音が一番心地良いと感じる音なんだよね、確か。


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