日常
 いつの間にか当たり前になってしまったこと。それに今更気が付くと凄く恥ずかしい。
 例えば、隣にこいつが居る風景とか、繋いだ手の温もりに安らぎを感じているとか。
「…何?僕の顔、何か付いてる?」
 いきなり振り向かれて、眼が合ってしまった。
「な、何でもない」
 自分の想いを見透かされているみたいで。オレは慌てて眼をそらした。顔が、熱い。
「そう?なら、いいけど」
 クスリと微笑う。不二は繋いだ手を強く握り締めると、オレの肩にもたれるようにしてくっついてきた。
 日常の風景。けれど、今日は凄く意識をしてしまう。確かに、よく考えてみれば男同士でこんなこと。変だ。
「手塚。顔、赤いよ?」
 オレの肩に頭を寄せたまま、からかうように不二が微笑った。確信犯としか思えない行動。やめて欲しい。そんな気がないのなら。
「……不二」
「ん?」
「離れて、くれないか」
 言いながらオレは肩にあった不二の頭を退けた。不思議そうな眼で不二がオレを見つめる。温もりは、まだ伝わってくる。不二が手を強く握ったまま、放してくれない。
「………何で?」
「何でって。可笑しいだろう?男同士で」
 こんなこと、とオレは繋がれたままの手を不二の目の前まで持ち上げた。不二がオレとその手を交互に見る。
「そうかな?」
 キョトンとした顔。
「そうだ」
 少し強めの口調。不二は、そう、と淋しそうに呟くと絡められた指を解いた。支えを失った不二の手が滑り落ちていく。
 不二は溜息をつくとフェンスに寄りかかった。いつもならオレの肩に寄りかかるのだが。ちゃんと考えてくれたようだ。
 ………少し、淋しい?
「じゃあ、女の子だったらいいってこと?」
 突然、不二が口を開いた。振り返ると、真剣な眼差しがそこにあった。
「別に。そういうわけでもないが」
 呟くと、オレも不二と同じようにフェンスに寄りかかった。無言のまま、暫く見つめ合う。
 と、不二が小さく溜息をついた。
「今まで平気だったのにね。…ずっと我慢しててくれたの?」
「…違う」
 今までは別になんとも思わなかった。
「じゃあ、僕は嫌われちゃったってことかな」
 淋しそうに言う、不二はオレから眼をそらした。宙を仰ぐように一度、深呼吸をする。
 オレは、どう答えたらいいのかわからなかった。否定をすればいいのだろうけれど。それでは、何故突然不二を拒んだのかという理由を話さなければいけなくなる。言えない。自分の気持ちに気づいたからだなどとは。
「そっか。ゴメンね。嫌な思いさせちゃって」
 沈黙を、肯定と取ったのだろう。オレの眼を見て無理やりな笑顔を作ると、不二は背を向けて空いているコートへと歩き出した。
「不…」
 呼び止めようと手を伸ばしたが…それは、叶わなかった。いや、届かないことを知っていたから手を伸ばしたのかもしれない。だって、呼び止めて、どう言い訳すればいい?お前を好きだということに気づいたから変に意識してしまって、今までのように接することは出来ない、とでも?
「……そんなこと、言えるはずがないだろう?」
 嫌われたくはない。自分を守るためだとわかっていても。その所為で不二が傷つくことになるとわかっていても。誰だって、自分が一番可愛いんだ。
 日常の風景はあっという間に崩れ、オレの隣には空白が残った。それでも。広い眼で見れば、まだ同じ空間にいる。嫌われているわけではないのだから、オレ次第でいくらでも日常は取り戻せる。
 けど。それはきっと無理だ。オレはきっと、日常以上のものを望んでしまうから。
「馬鹿だな、オレは」
 呟き、オレから一番離れたコートでボールを打つ背中に目線を移した。
「……すまない」
 何故か泣きそうになった自分が、可笑しかった。




ストックです。手塚が卑怯なので、アップするかどうか迷ってました。
ってか、まあ、普通でしょう。
手塚は表情には出ないけど、中身は普通の人ですよ。闇の部分とかね。
不二は異常つぅか、過剰つぅか。


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