静寂の間に
 無言で、歩いていた。もうすぐ手塚の家に着いてしまうというのに、一度も言葉を交わしていない。それでも。一緒に帰っているという事実は、それだけ僕たちの関係が自然だっていう証拠だろう。
 手塚が大石と一緒にコートに現れた時、みんな、お帰りと言って迎えた。そして手塚も、彼らにただいまと言った。でも、僕には言ってくれなかった。僕も、お帰りとは言わなかった。
 だって、言いたくなかった。
 お帰りと言ってしまえば、それまで僕たちが離れ離れだったことを認めてしまうような気がして。会いたかったという言葉も、同じような理由で、やはり言えなかった。
 ずっと一緒にいたんだ。少なくとも、僕は。
 連絡はこまめに取っていたし、それに…。それに、いつも手塚を近くに感じていた。切原くんとの試合だって、手塚が傍に居てくれたから、僕は勝てたんだ。
 そりゃあ時々、独りを感じた時はあったけど。それは手塚の温もりが欠落していることに気づいた時で。でも、それは普段通りの生活をしていても起きていたことだから。何ら特別な感情じゃない。
 お帰り、と最初の言葉を言えなかったから。僕たちは、言葉を発するタイミングを失ったままだった。何か言わなければと、やっぱり思うのだけれど。何を言っていいのか、分からない。口下手な手塚ならともかく。僕がそんな風に思うなんて。こんなこと、初めてだ。
 気が付くと、門前まで来ていた。足が止まり、当然のように、向かい合う。
 やはり、何か言うべきなのだろう。でも、何て?
 分からなくて。俯いたままでいると、不二、と名を呼ばれた。見ると、手塚は少し照れたような顔をしていた。コホ、と咳払い。
「触れても、いいか?」
「……うん」
 僕が頷くのとほぼ同時に、口元に当てていた手塚の右手が伸びてきて。僕の頬に触れた。左手は、僕の手をしっかりと握って。
「抱いても?」
「いい、けど。……その前に」
 温もりを与えられるだけというのはなんだか悪い気がして。僕は背伸びをすると、触れるだけのキスをした。そのまま、手塚を強く抱きしめる。手塚も、繋いでいた手を解くと、背に腕をまわしてきた。
 伝わってくる懐かしい温もりに。なんだか、それだけで充分な気がした。特別何かを言葉にしなくても。
 けど。口下手な手塚はそうは思わなかったみたいで。僕の耳元に唇を寄せると、何か言葉を発する為に息を吸い込んだのが分かった。
 何て言葉が出てくるのか。ただいま?それとも、会いたかった?
 どちらにしても、それらの言葉が出た時点で、傍に居たと思っていたのは僕の妄想だったということになってしまう。
 否定される言葉を聞くくらいなら、いっそその口を塞いでしまおうかとも思ったけど。強く抱き締められていたし、緊張で体が強張っていて、僕は身動きが取れなかった。
「てづっ――」
「触れたかった。ずっと、こうして…」
「――か」
 僕も、触れたかった。そう言おうとしたけど、言葉にはしなかった。言葉にならなかったと言った方が正しいのかもしれない。嬉しすぎて。同じように、感じていたことが。
「手塚」
 暫く考えたけど。どうしても、彼の言葉以上のものが浮かばなかったから。僕は腕の力を緩めると、もう一度、手塚にキスをした。




手塚、お帰り!そして捏造でごめん!(笑)
えーっと、この話を書いている時点では、手塚が現れたばからりでその後どうやって帰ってくるのか分からないのですが。
不二がもし、お帰り、って言ってたらどうしよう。と、ドキドキしながら書いてますが。
二人はずっと繋がってましたよ。だから、ただいまとは言わないし、おかえりとも言わない。
タイトルは岡本仁志の2ndソロアルバムから。好きな曲です。
♪そんなに話さなくても 感じるだけでいい
 You know a trail
 言葉にしようとしないで…
 静寂の間に♪
BGMにしてもらいたいけれど、このCD持っている人は皆無だと思うので諦めます(笑)
……挿絵ください。(←誰に言ってる!?)


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