長い口づけの後、唇を滑らせるとその首筋をキツク吸い上げた。
「っめ…」
 熱い息を吐き、彼が身悶える。どうにか、といった感じで手を滑り込ませると、僕の額を押しやった。
「痕はつけるなと」
「言ったけど。いいじゃない、別に。どうせ直ぐ消えるんだし」
 僕の額にある彼の手をとり、口に含む。彼を見つめながら。その細く長い指を音を立てて舐め上げると、彼は顔を赤くして僕から目をそらした。
 そんな彼を可愛いと微笑いながら、僕の胸は微かに痛んだ。
 理解ってる。これがどんなに無意味な行為かということくらい。幾ら彼のカラダに僕を刻み込んでも、それは直ぐに消えてしまう。どんなに頑張っても、永遠に彼をこの手に留めておくことは出来ない。そもそも、僕たちは一緒にいてはいけないのだから。
 でも、それでも。ほんの一瞬でも。
「手塚が僕のものであるという証が、欲しいんだ」
 彼の手を遡り、服では隠せない位置に痕をつける。また抵抗をされるだろうと思ったけれど、意外にも彼は抵抗してこなかった。ただ、僕をじっと見つめるだけで。
 その真っ直ぐな彼の視線が、胸に痛い。
 けれど、始めてしまった行為を、彼を穢す行為を止める術を僕は知らないから。僕は痛みに目を瞑ると、白いカラダに次々に痕を残していった。
「お前は、オレを信じていないのか?」
 彼を穢しているという罪悪感と、それ以上の快楽に溺れていると、突然彼が呟いた。僕が動きを止めないから、その声は途切れ途切れだったけれど。眼だけは、相変わらず真っ直ぐに僕を射貫いていた。
「……どういう、意味?」
 動きを止め、訊き返す。けれど、彼は動きを止めてはくれなかった。熱い吐息を漏らしながら僕の首に腕を回し、唇を重ねる。
「オレはとっくにお前のものだ。そしてお前は、オレの、オレだけのものだ」
 淀んでいない、澄んだ声で言うと、彼はまた口づけてきた。けれど、僕はそれに応えることが出来なかった。この上なく嬉しい言葉なのに、どうしても、苦しみが伴ってしまう。
 どんなに僕が傷つけても、穢しても。絶対的な強さと美しさみたいなものが彼には在って。彼からの想いを強く感じれば感じるほど、自分との世界の違いを思い知らされる。どうせ穢せやしないのだから、一緒にいても構いやしないのだろうけれど。彼の世界は眩しすぎて、僕には苦しすぎるから。
「……不二?」
「好きだよ、手塚」
 痛みを押し込め、微笑ってみせる。
「ああ」
 頷くと、彼も微笑った。
 そうして僕たちは、刹那的な行為を再開した。


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