偶然or必然
 僕たちは、誰かの作った箱庭の中の存在だから。偶然なんてものはなくて。自分の意思なんかもなくて。この先僕が足掻くのか、足掻かないのか。それすらも、既に決められているんだ。
 だったら。
 このまま僕は、流されるべきなのだろう、と…。
「……おこら、ないんだな」
 何も言わず見つめていると、彼は恐る恐るといった感じで口を開いた。静かに首を横に振り、笑顔を作る。
「怒るようなことなの?」
「さぁな。だが、きっと怒るだろうと思っていた」
「そういう筋書きなんだ。仕方がないよ」
 溜息を吐き、ベンチに座る。微かに聞こえた軋みが、余計に静寂を感じさせた。部室には、僕たち以外、誰も居ない。
「仕方がない、か」
「なんか、残念そうだね。もしかして、怒り狂って欲しかった?」
「……そう、かも。しれないな」
 僕と同じように溜息を吐きながら言うと、彼は僕から少し離れたところに腰を下ろした。膝の上で手を組み、俯く。
 柄にも無く落ち込んだ風なその姿よりも、僕の言葉を素直に認めたことの方が、珍しい、と思った。
 いつまでも彼が俯いたままだから。僕はベンチに手をつくと、壁に寄り掛かるようにして天井を見上げた。彼によく聞こえるように、溜息を吐く。
「そう思うことにしたんだ」
「……何?」
「仕方がないって。これはきっと、この世界を作った誰かの筋書きなんだからって。抗おうとしたとしても、それすらもきっと予め決められたことだろうから。だったら、流れに身を任せようって」
 そう思わないと、辛いから。その言葉は口に出さず呑み込む。と、天井がじわりと滲んで来て。僕は深く目を閉じると、深く息を吐いた。沸き起こってくる、もやもやした何かを、静めるように。
 この箱庭(せかい)を作った誰かなんて。きっと、何処にも居ない。僕が流されることを選んだのは、ここで彼の望む通りに怒り狂ったって、その心を再び僕に向けることが出来ないって分かってるからに過ぎない。
 運命なんて、ただの言い訳。けど…。
「もし互いが必要なら、きっと。また、めぐり会えるから」
 それは、微かな希望。でも今の僕は、運命(それ)を信じることしか出来ないから。
「そう、か。……不二。すま――」
「だから、謝らないで」
「…………」
「これは君の意思じゃなくて、初めから決められてたことなんだから。謝らないで」
 ずっと閉じていた目を開け、彼を見つめる。
「……分かった」
 暫くそうして見つめ合っていたけれど、静かに頷くと、彼は僕に背を向けて立ち上がった。そして、それを合図にしたかのように、僕の頬を一筋の涙が伝い落ちた。




365題『箱』のコメントから。(仮タイトルは『箱庭』でした)
不二塚って、別れ話をする時は絶対手塚が原因と思う。
そんなわけで。SURFACEの『偶然=必然』を聴きながら書いてみました。好きな曲です。
♪偶然はある意味必然で 始めから全て決まってたそんなもんだろう 僕らが出会う事から離れる事も筋書き通りなだけ♪


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