HANDs
 どうしたら、この想いが届くのだろうかと。最近はそればかり考えている。
 だからここ最近、ずっと呆けてしまっていて。周囲からはどうしたのかと、熱でもあるんじゃないのかと、心配される。
 こんな風にさせている本人にすらも。
「別に」
 何でもないわけではないし、大丈夫なわけでもないから。それだけを答える。すると、不思議に思いながらも、みんな散ってくれる。
 ただ一人、こんな風にさせている本人を除いては。
 けれど、だからといってコミュニケーションをとるわけではない。何も言わず隣りに並んで一緒にコートをただ眺める。
 傍に居てくれる嬉しさと、傍に居るのに想いが届かない苛立ちで、頭が痛くなる。
 総てとは言わない。せめてその欠片だけでも伝わって欲しい。
 そうは思っても。伝え方が分からない。言葉に出来るわけがないし、態度でそれとなく示すなんて、余計無理。
 それに、伝わったかどうかの確認の仕方も分からない。お互い、殆んど表情を変えることが無いから。
 だから、もしかしたら、想いは既に伝わっていて。それに自分が気付いていないだけなのかもしれないと。無駄に前向きに考えてもみるけど。恐らく、その可能性はないだろう。
「―――」
 急に名前を呼ばれたことに驚き振り向くと、いつもの表情で空いたコートを指差していた。何も言わず、頷く。途端、手が伸びてきて、触れた。反応をする間もなく、手を引かれる。
 届け。
 繋いだ手。伝わってくる温もりを感じながら、強く想う。
 欠片でもいい。この手の温もりと一緒に…。


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