Without releasing me.
「飛ぶのか?」
 屋上のフェンスに座っていると、突然、背後から声が聞こえた。慎重すぎる足音が、近づいてくる。
「飛んで、総てを終わりにする気なのか?」
 少し、汗ばんだ手。フェンスを掴む僕の手の上にそれを乗せると、強く掴んだ。
「……だとしたら、どうする?」
 振り返らずに、答える。どうせ彼の表情は分かってる。眉間の皺を深くして、けれど不安に揺れる眼で、僕を見ているんだ。
「それくらいで、償えると思っているのか?」
「思ってない。けど。これから先、起こることを防ぐことは出来る」
 勢いをつけて、向こう側に飛び降りる。彼の手をすり抜け、振り返ると、緑色のフェンスを挟んだ直ぐそこに顔があって。驚いて、逆に体を反らしそうになってしまった。
 フェンス越しに、指が絡められる。
「君が、言ったんだよ。僕がいるから、トラブルが起こるって」
「あれは…」
 言いかけて、彼は口を噤んだ。眼をそらす彼に、ふ、と笑みを零す。
 観月に利用された裕太。切原に膝をやられた越前。そして、跡部に肩を壊された、手塚。手塚は、その前にも、左肘をやられている。それもやっぱり、僕の所為。
「もう、今更。許してくれとかそういうことは言わないけど。でも、ここで僕がいなくなれば。この先、少なくとも僕が原因でのトラブルが起こることはなくな…」
「そんなこと。オレが許さない」
 僕の声を遮るように。彼は僕の眼を睨みつけ言うと、爪を立てるようにして強く僕の手を握った。彼と僕との間にあるフェンスが、酷く邪魔だと思った。
「けど。君が言ったんだよ?」
「それは…。お前が、もっとしっかりしていないから。だから、そういうトラブルが起こるんだ」
「しっかりって?」
「……そういう、期待、を。持たせ……………」
「手塚?」
「聞きたいなら、こっちへ来い。それとも、オレがそっちに行くか?」
「……分かったよ」
 真っ直ぐな眼に、それが本気なのだと悟った僕は、渋々フェンスを乗り越えた。これでいいんでしょう、と微笑いかけた口を、塞がれる。
「って、づか?」
 唇を離すと、僕を半ばフェンスに押し付けるようにして、彼が寄りかかってきた。ボクの肩に頭を乗せて。
「オレが、お前のものだとか。お前が、オレのものだとか。そういうことを、お前がはっきりと示さないから。いけないんだ」
 恥ずかしいのか、殆んど聞き取れないくらいの声で言う。僕はそんな彼を引き剥がすと、今度は自分から、彼に口づけをした。
「けど。こういうの、嫌いだって。君がいつも…」
「…そんなの、嘘に決まっているだろう」
「じゃあ、君が示して見せてよ」
「…そういうのは、お前の方が得意だろう」
「………守ってやる、とは言ってくれないんだね」
「……………トラブルが降りかかるのは、お前の周りの奴等にであって、お前自身にではない、から」
「相変わらず、結構非道いよね。手塚って」
 微笑いながら言う僕に安心したのか、彼もやっと笑顔を見せると、僕の隣に並んだ。そのまま二人で、ずるずると地べたに座る。僕の肩に、再び彼の頭。
「これでも、まだ飛ぶつもりでいるのか?」
「君が、望むなら」
「オレはそんな責任の取り方は望んではいない」
「じゃあ、どうすればいい?」
「…だから。二度と、そう言った期待を他の奴等に持たせないよう」
 そこまで言い頭を起こすと、彼は深呼吸をした。僕の手を強く握り締め、そして、耳元に唇を寄せ――。




モテる不二と勝手な手塚の話。
果たしてタイトルの英文があってるのかどうか。(←英語嫌い)


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