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 歩くのが遅いってわけじゃないけど。
 今日みたいに、雨の後の晴天の日は、空だとかいつもより濃いグリーンだとかに目を奪われて。どうしても、歩調が遅くなってしまう。
 けど、彼は僕よりも歩くのが少しだけ早い上に、進むべき道しか見ていないから。
 いつの間にか、二人の間には手を伸ばしても届かないほどの距離が出来てしまう。
 それでも僕たちが傍に居られるのは。
「不二。何してる?」
「……うん」
 時々、彼が立ち止まってくれたり。
「捉まえた」
「……遅い」
 ゆっくりと追いついた僕が、離れないようにしっかりとその手を繋いだり。なんてこと、してるから。
 でも暫くすると、この手も自然と離れて。僕たちの間にはまた距離が出来る。
 それでも、また同じことをくり返して近づくから。僕たちは一定の距離以上、離れることはない。
「…何を微笑ってるんだ。気持ち悪い」
「あはは」
 手を握るたび、僕の帰るべき場所は彼のもとなんだって実感する。そして、それが嬉しくて、ついつい顔の筋肉が緩んでしまう。
「ねぇ、手塚」
「何だ?」
「………何でもない」
 彼の帰るべき場所も僕だったらいいな、と思いながら。それは訊かずに、強く握り返してくれた彼の手を見つめて、僕はまた微笑った。




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