dreamin'
「……手塚」
 安らかな寝顔に呼びかけ、頬に唇を落とす。そのことに何の反応も示してはくれなかったけど。軽く持ち上げていた体を戻すと、彼の頭がほんの少しだけ、僕に寄ってきてくれた。
 それだけで。自然と、笑みが零れる。
「倖せ過ぎて、怖いなぁ」
 彼の頭を抱き寄せ、呟く。すると、きつく押し付け過ぎたのか、彼が身悶えた。
 僕から、頭を離す。
「ふ、じ…?」
 少し、呼吸を荒くして。けれどまだ醒めていない目で、僕を見る。
「ごめん。苦しかった?」
「……起きて、たのか?」
「ん。まぁね」
 微笑いながら言うと、体を離してしまった彼のかわりに、今度は僕から擦り寄っていった。猫を頭の中に描いて、甘える。
 嫌がられるかと思ったけど。まだ寝惚けているのか、意外にも、僕の頭を撫でながら自分の方へと強く抱き寄せてくれた。
 倖せ過ぎて、溜息が出る。
「悩み事か?」
「んー。でも、手塚が気にすることじゃないよ」
 首筋に、息を吹きかけるようにして言う。
 薄く反応を示すから。そのまま噛み付こうとしたら、髪を引かれた。無理矢理に僕を引き剥がす。
「……痛いよ、手塚」
「言え」
「うん?」
「悩み事だ」
 真っ直ぐな目で問われ、思わず微笑ってしまった。彼の眉間の皺が、深くなる。
「何が可笑しい」
「真面目だなぁ、と思ってさ」
「…………」
「ごめん。拗ねないでよ。…ちょっとね。倖せ過ぎて、怖いなぁって思ったんだ」
「…何?」
「目が醒めたら、全て夢だった。なんてことになったらと思うと、怖いんだ」
 だって、こんな倖せ。現実だなんて、未だに信じられない。
 一瞬でも、この目から彼が消えてしまったら。全てが終わってしまいそうで。
「それで、起きていたのか?」
「……くだらないって、思ってるでしょう」
「当然だろう」
「だから、気にすることじゃないって言ったんだよ」
 眉間の皺を伸ばすようにして触れると、僕は微笑った。余計に顔をしかめてしまった彼をそのままに、仰向けになる。すると、天井ではなく彼の顔が視界に入ってきた。遅れて感じる、温もりと重み。
「…どうしたら、取り除ける?」
「ん?」
「どうしたら、お前の不安を取り除ける?」
「……どうしたら、か」
 無理、なんじゃないかなぁ。不安そうに揺れる彼の目を見ながら、思う。
 だってこれは。倖せだからこそ、感じる不安なんだから。
 本当に不安を取り除きたいのなら。分かれるしかない。永遠に、ずっと一緒に居るなんて。不可能だし。
「不二?」
 けど。本当のことなんて言える筈も無いから。
「そうだなぁ」
 呟くと、唇を重ねた。
 彼の体を隣へと戻し、探るようにして指を絡める。
「これが夢じゃないんだって分かるように。安心して、眠れるように」
 その温もりを、一晩中感じさせて――。




大切なものを手に入れた途端、それを失うことへの恐怖が付き纏うようになる。
不二は、幾夜眠れぬ夜を過ごすのだろうか…?


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