EYEs
 目が好きだと言われた。
 澄んだ目。空のように、青く。
 言われた時は、何を馬鹿なことを言っているのだろうと照れたけど。考えてみたら、それは合っていたのかもしれない。
 僕はあの空と同じ。何もない。
 いや、何もなかった。
 だからそれだけ純粋でいられた。欲しいものがないから総てを受け入れることが出来た。だから、多分。それで彼は僕の目が澄んでいると言ったのだろう。
 でも、今は違う。
「ねぇ、手塚。今でも僕の目、好き?」
 唇を離した僕は、彼を真っ直ぐに見つめて聞いた。同じように見つめ返した彼が、ああ、と頷く。
「どうして?僕はあの頃と変わってしまったのに。それでも君は、まだ僕の目が澄んでいるとでもいうつもり?」
 僕はあの頃と違う。彼に目が好きだと言われた頃とは、もう。
 僕には欲しいものが出来た。手にしても足りないと思う程に強い欲望。今はもう、総てを受け入れられない。空のようにからっぽじゃない。
 今は。
「君のことでいっぱいで。こんなにも醜く歪んでるのに……」
 まだ真っ直ぐに見つめている彼の目が辛くて、僕は目をそらした。いつの間にかきつく握りしめていた手を、離す。
「お前の目は澄んでいると、オレは思う。ただ、空のような青さから、海のような青さに変化しただけだ。それでも、澄んでいることに変わりはない」
「……海?」
「同じ青だが、海の底は潜ってみないと分からない。今のお前の目には、深さを感じる。何か、奥に隠しているだろう?」
「どろどろしてるだけだよ。知らなかった、自分がこんなに嫉妬深かっただなんて」
 彼の唇に触れ、もたれるようにその肩に額を乗せる。
 と、彼はそのまま背を倒した。僕の体も一緒に倒れる。
「手塚?」
「お前の目に見つめられていると、窒息してしまいそうだ。最近、特に」
「窒息?」
「そうだ。呼吸が出来なくなる。……お前を、好き過ぎて」
 見下ろす僕の頬に彼の手が触れる。引き寄せられるよりも先に彼の顔が近づいてきて、唇が触れた。そのまま彼をベッドに押し付けて、眼鏡を奪う。
「窒息死。させたくないな。見つめない方がいい?」
「オレは、溺れ死んでも構わないと思っている。骨を、お前の海に撒いてくれるなら」
「……なんだか、今日の君は思考がダークだね」
「お前の影響だ」
「悪影響?」
「さあな」
 だが、悪い気はしていない。そういった彼の目はそれこそ、何処までも澄んでいて。そう、まるで太陽のように眩しく。触れるどころか、直視することすら難しい。
 視線が、熱い。
「ねぇ手塚。僕は、君に触れても燃え尽きたりしないかな?」
「……何の、話だ?」
「君の目は、太陽みたいだ。眩しくて、熱い。触れたら火傷どころじゃ澄まないよ」
 内心の不安を悟られないよう、クスクスと声を立てて笑う。シャツのボタンを開け、白い肌に噛み付くと、彼の体が微かに震えた。
「そんなこと、以前は言わなかったが?」
「最近。そう思う。どうしてだろうね」
 本当に、ここ最近だ。そう、僕の中が空っぽではなくなったのと同じくらい。抱いても抱いても、それでも手に入れられないもどかしさに狂いそうになったあたりから。
 そうだ。きっとそう。僕がそんな風に思うようになったのは、彼の目が、高く遠くなったから。手を伸ばしても届かないほどに。太陽のような眩しい輝きを放つようになったから。
「遠いよ。僕が海だとするなら、尚更。太陽である君には触れられない。……こんなに、近くにいるのに」
 彼の肌から唇を離し、見つめる。両手はしっかりと彼の両手を掴んで。
 眩しさに目を細める僕と、息苦しさに顔をしかめる君と。傍から見たら、きっと奇妙な光景。
「遠くなどない。今、こうして触れている」
「体は、ね」
「心にだって。……オレの、視線に熱を感じるのは、きっとそのせいだ。お前は、自分だけが嫉妬深いとでも思っているのか?」
「――え?」
「オレが溺れ死ぬのが先か、お前が焼け死ぬのが先か。オレはどちらでも構わない。それでどちらかがどちらかのものになるのなら」
「手塚……」
 真っ直ぐに見つめて来る彼の目は、本当に、何て眩しいんだろう。
 そうだね。僕も。君に焼き尽くされるのなら、構わないや。
 だから、僕は手を伸ばそう。彼の目に。その奥にある、熱い心に。それがどんなものであったとしても。僕は、触れたい。そして、彼の総てを手に入れたい。
「手塚。好きだよ」
「……ああ」
 囁く僕に、彼は詰めていた息を吐くように頷く。本当に、呼吸困難になっているみたいだ。思わず、クスリと笑う。そういう僕も、体が熱くて仕方がないのだけれど。
「ごめん。もう、止められそうにないや」
 絡めていた指を離し、シャツの間から覗く彼の肌に触れる。明日は学校だし、少しの抵抗は覚悟していたけれど。
「今更止められても、困る。煽ったのは、きっとオレだからな」
 僕の頭を掴みそう呟くと、手塚は急かすように自分の胸に僕の顔を押し付けた。




OVAの決勝。不二vs仁王が余りにも不二塚だったので。
それにしてもOVAの不二の目はとても綺麗ですね。
不二のダークな思考に対してはいつもよりは饒舌になる手塚とか。好き。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送