Stardust
「今年は、一緒に見れたね」
 遅れてベランダに出た不二は、夜空を見上げながら言った。その向こうで、風に揺られて笹が鳴る。
「去年は……。ねぇ。手塚も、天の川見てた?」
 僕は、君の事を思ってずっと見てたよ。視線をオレに落とし、少し辛そうに笑う。そんな不二が愛しく思えて、オレは手を伸ばすと頬に触れた。風で揺れる茶色の髪を、不器用に耳にかける。
「手塚?」
「オレは、見ていなかった」
「そう」
「お前を、思い出したくなくて」
「――え?」
「会えないのに。……思い出すだけ辛いだろう?」
 不二から手を離し、夜空を見上げる。暫くオレを見つめていた不二も、それ以上オレが何も言わないことを悟ると、小さく溜息をついて夜空を見上げた。
 柵にのっている不二の腕が、オレの腕に触れる。
「僕は、どんな切欠だってすぐに君を思い出すから。こうしていてもいなくても、結局同じだったんだよね」
「…………」
「大体、テニスは君との大切な繋がりだったから。それこそ、毎日」
 言葉を切り、オレを見る。横目で不二を見ていたため、容易にその目に捕まってしまった。
 先ほどとは反対に、不二がオレの頬に触れる。
「辛かった……」
 触れる手が滑り、オレのうなじを強く掴む。その意図に気づいた時にはすでに、引き寄せられるよりも先に、オレの方から距離を詰めていた。
 そっと、唇を重ねる。
「手塚」
「ったく。いつの話をしてるんだ、お前は。今はもうずっと、こうしているだろう?」
「そうだね。もう、君を思い出す必要もない」
「……だからテニスを辞めたのか?」
「違うよ。何度も言うけど、僕がテニスを辞めたのは、本格的に写真をやろうと思ったから」
 何度も繰り返している問い。不二はいつもと同じように答えると、オレから離れた。
 夜空を取るために用意していた三脚つきのカメラを、ファインダーを覗きながら動かし、そこから繋がったコードを持ってオレの前に戻ってくる。
「不二?」
「記念撮影。天の川をバックに」
 ね、と言うと、不二はオレの返事を待たずに胸倉を掴んで強く引き寄せた。
 連続するシャッター音に、少し照れはしたが。ベストショットを撮ることを言い訳に出来るだろうと思ったオレは、何度も角度を変え、その感触を確かめた。




手塚は無心になるためにテニスをすることが出来るけど。
不二はそれは出来ないんだよなぁ。


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