未送信
 溜息をついて携帯電話を閉じる。漏れてくる光の向こうには、彼に宛てた言葉が未送信の状態で残されている。
 後は送信ボタンを押すだけ。けど今日も僕はそれが出来ずに。次に携帯電話を開いたならきっと、そのメールを破棄してしまうだろう。
 眠れぬ夜にはいつもこんな無駄なことをしてしまう。
 無駄なこと?
 そう、これは無駄なこと。
 僕の携帯電話には、手塚が日本で使っていた携帯電話の番号とアドレスしか入っていない。だからもし送信したとしても、読まれるのはもっとずっと後。
 それがどれくらい後なのか、僕には分からない。
「てーづかっ」
 淋しいよ。
 誰が聴いてるわけでもないのにわざと明るく呟く自分が馬鹿らしく、笑みが零れる。
「馬鹿みたいだ」
 溜息混じりに言うと、その息に火を吹き消されたかのように部屋が真っ暗になった。どうやら携帯電話の画面が消えたらしい。
 僕の想いもこんな風に、時間が経ったら消えればいいのに……。でも。
 携帯電話を開けばそこには、何度も推敲したメールが残っている。自分の意志で削除しない限り、いつまでも。例え誰かの着信が入ったとしても、充電が切れたとしても。送信フォルダには未送信のまま残り続ける。
 いっそのこと、送ってしまえば。後から作ったメールたちに押し流されて消えてくれるのかもしれない。僕の、この想いも。
 それならばと手探りで再び携帯電話を開いてみたけれど。僕の指はいつものように、メールの保存を選択していた。




向こうの連絡先、決まったら伝える。と、いったきり。手塚は不二には伝えないような気がするんだ。


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