帰り道。早すぎる夜の訪れに、はぐれないよう。僕らは手を繋いで歩く。吐く息は白く、昼間の雲のように宙に流れてゆく。
ポケットの中、握り締めた彼の手は。驚くほど温かい。
「……この先も、ずっと一緒に居たいですね」
もうすぐ、手を離さなければならない。その淋しさからか、彼はいつもそう呟く。
だから僕は。
「あの星をくれたら、ね」
自由な左手で、一等星を指差し微笑う。
別れを連想させる永遠の約束なんて、聞きたくない。そんなもの無くても。僕は、何処にも行かない。
けれど。彼は僕の真意を知るはずも無いから。一等星を見ながら、いつも困ったように微笑う。その横顔に、何故か距離を感じてしまって。
歩みを止めて、その手を離す。温もりが消えるころに、やっと彼が振り返る。
「不二くん?」
優しい声で呼ばれる。けど僕は何も言わない。無言のまま、彼を見つめる。
「全く。困りましたねぇ」
間の抜けた声で呟き、僕の頭を撫でる。その手を。思い切り引き寄せ、唇を重ねた。色の無い眼鏡を取り、その奥を、見つめる。月光を反射して揺れている、眼。
そうしていつまでも見つめていると。その眼が、優しく微笑った。彼の手が、頬に触れる。そして、どちらからというわけでもなく、キスをした。
「少し、遠回りして帰りましょうか」
手を差し出し、微笑う。頷く代わりに、その手をとった。
「手、冷たくなっちゃいましたね」
僕と手を交互に見つめ、苦笑する。僕は俯くと、小さく首を横に振った。
「こうすれば、すぐ温まるよ」
言いながら、彼のコートのポケットにお邪魔する。繋いだ手を強く握り、彼を見上げた。笑顔を、つくる。
「……そうですね」
少し照れくさそうに。彼は、微笑った。
また、歩き出す。いつもと変わらない風景。だけど。流れるスピードは、遅く。そこに在ったはずの、刺すような寒さは、もう、ない。
「相変わらず、答えは保留のままですか?」
その腕に、頬を寄せた僕に。彼は口を開いた。何のことか解からず、見上げる。
「『この先も、ずっと一緒に居たいですね』。」
いつもと同じトーンで。呟く。
「………『あの星をくれたら、ね』。」
僕も、いつもと同じように答える。
それが妙に可笑しくて。声を上げ、二人で微笑った。
「我侭なヒトですね、君は」
眼を細め、見つめる。
「大和くんにだけ、だよ」
否定せずに、頷く。見つめ返す僕に。彼がまた、微笑った。
「好きですよ。ボクを困らせることばかり言うキミが。これからも、ずっと」
やけに嬉しそうな、声。
「物好きだね」
言い返す。その言葉も。嬉しそうな顔に、飲み込まれた。
「キミほどではないですよ」
言ってまた、微笑う。悔しいけど。その笑顔が嬉しいから。
「それは、そうかもね」
頷くと、僕も微笑った。
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