It's only love


「ったく。俺様を待たせるなんて、いい度胸じゃねぇか。あーん?」
「あはは。ごめん、ごめん」
 待ち合わせに5分ほど遅れた僕は、とりあえず謝ると、背伸びをして彼の頬にキスをした。公衆の面前だけれど、僕たちの場合、何故か嫌な顔をされることは少ない。だからと言って、注目されないわけではないのだけれど。
「相変わらずルーズだな。言い訳なんざ聞きたかねぇからな」
「うん。分かってる」
 注目されることに喜びを感じる彼は、満更でもなさそうな顔で言うと、歩き出した。慌てて隣に並び、指を絡める。
「……で」
「うん?」
「何で遅れて来やがったんだよ」
「え?」
「何だよ。言い訳すらしねぇのか?あーん?」
「いや、だって…」
 君が言い訳なんて聞きたくないって言ったんじゃないか。なんて。思っても、口には出さない。
 全く、彼はよく分からない人間(イキモノ)だ。言い訳を聞きたくないと言うからしないのに。怒るなんて。でも多分、彼に聞きたくないと言われた直後に言い訳をしても、怒るのだろうと思う。それを我侭という言葉で括ってしまえば楽なのかも知れないけれど。彼には彼なりの理屈があるらしい。とは言え、それを説明してくれるなんていう優しい心は持ち合わせていないから。僕にとって彼は多分、この先ずっと分からないままなのかもしれない。
 でもとりあえず。今は彼に言う通りにするしかない、と言うのだけは分かる。
「何だよ。遅刻したのに反省してねぇのか?」
「してるよ。ごめん。何て言うかさ、明日跡部と久々に会うんだって思ったら、眠れなくて…」
「は。いつもの理由だな。もういい。聞き飽きた」
「ごめんね」
「聞き飽きたつってんだろ」
 聞き飽きたのは、言い訳の方なんじゃ…?まぁ、いいけど。
 内心溜息を吐き、けれどそれを悟られないように手を強く握る。そのまま暫く無言で歩いていると、彼が、僕が心の中で吐いたような大きな溜息を吐いた。
「てめぇ、反省してねぇだろ?」
「何で?反省してるよ」
「何処がだよ」
「…………ああ。ごめんね、跡部。お詫びに、今日は夜までずっと付き合うからさ。君の貴重な5分の変わりにはならないかもしれないけど。何なら、泊まるけど」
「ふん。そこまで言うなら、仕方ねぇな。てめぇは明日まで、俺様から離れんじゃねぇぞ」
「うん」
 失敗した。聞き飽きたと言われても、この場合は謝るべきだったらしい。まぁ、今更遅いけど。それに、別に彼の部屋に泊まるのは、嫌ではないし。
「ああ、そういや」
 何とか午前中に斜めになった機嫌を直し、彼の部屋に辿り着く。すると、彼は鍵を開けながら、思い出したように言った。
「来週の今日、何の日だか憶えてるか?」
「えーっと…」
 折角立て直した彼の機嫌を損ねないよう、僕は急いで思考を巡らせた。彼が部屋に入りソファに座るまでに思い出さなければ、きっと、また機嫌を損ねてしまう。そうしたら、明日の午後から部活は休む羽目に…。
 けれど、僕の焦る気持ちとは裏腹に、彼も僕もいつもの速度で、足早にソファに座ってしまった。僕の膝に彼の頭。
「あんだよ。憶えてねぇのかよ」
「えーっと。あ。跡部のお母さんの誕生日だ」
「……てめぇ。憶えてねぇな」
「あははははー……ごめん」
「んだよ。約束したくせによ」
 怒るのかと思ったけど。彼は今にも消えそうな声で呟くと、僕の腹に顔を埋めた。触れる肩が、微かに震えている。
 もしかして、泣いてる?
「跡部?」
「うるせぇよ。バーカ」
 いつもより低くなった声が、震えてる。泣いてるんだ。
「ごめん。ごめんね、跡部」
 優しい声で言いながら、彼の髪を梳くようにして撫でる。彼は暫く黙っていたけれど。
「何に謝ってるのか、分かってんのかよ?」
 突然赤く腫れた目を向けると、弱々しい口調で言った。黙って首を横に振り、彼を起こす。膝を跨がせ、向かい合うようにして彼を座らせると、優しくキスをした。そのまま唇を滑らせ、零れた涙を拭う。
「ごめん、幾ら考えても思い出せないんだ。でも、ちゃんと跡部を好きだし、大切にしたいって思ってる。それだけじゃ、やっぱり足りないかな?」
 こつん、と額を重ねて言う。すると彼は、足りねぇよ、と声に出さずに呟いた。額を離し、僕の首に腕を掛ける。
「全然足りねぇよ。だったら、本当にそう思ってるかどうか、今日これからの行動でそれを表してみやがれよ」
「……分かったよ」
 再び涙を零した彼に僕は苦笑して頷くと、もう一度、今度は激しい口づけを交わした。





こんなゆるい不二は不二じゃない!と思いつつ。
岡本仁志『It's only love』を基に書いてみました。
♪She said 「今日はやけにルーズね 言い訳は省略してね」
 I said nothing more 言葉通りに受け止めたら怒るくせして…♪
♪たぶん僕は忘れてしまう約束や君の好みも
 でも大切にしたいと思ってるよそれじゃ足りないかな…♪
♪そうなんだ予報外れの雨のような 涙流すんだな
 What can I do. It's only love.♪
ほら、そのまんま!(笑)
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