誘惑


「いちいち、呼び出さないでくれないかな?」
 気だるそうに呟くと、不二は指定席であるソファへと座った。
「気にくわねぇんだったら、何で来てんだよ」
 俺の誘いに、こいつはいつも躊躇せずにOKの返事を出す。嫌ならば、断ればいい。ただそれだけのことだ。自分でOKしたくせに、そんな風に言われる筋合いなんてねぇ。
「だって、来なかったら。君、寂しいでしょ?」
 クスリと微笑うと、不二は自分の隣の空白を叩いた。呼び出したのは俺で。断る理由なんてねぇから。大人しく、隣に座る。
「……俺が寂しいかどうかなんて、てめぇにゃ関係ねぇだろ」
「だったら、呼び出さないでよ」
 伸びてきた手が、俺の髪を梳く。その手をとり引き寄せると、俺は唇を重ねた。
「……矛盾してるの、自分でも解かってるんだね」
 唇を離した不二が、俺の胸に人差し指を当て、微笑う。
「うるせぇよ」
 その手を払いのけると、俺は不二に寄りかかった。
「我侭だなぁ」
 クスリと、微笑う。払いのけたはずの手は、俺の肩に回されていた。
 自分でも、解かってる。他人に詮索されるのは嫌いなのに、こいつに無視をされると酷く傷つく自分がいる。だからと言って、あからさまに近寄ってこられるのも、迷惑な話だが。まあ、それは今後も一切ありはしない。不二は、俺が呼び出さないと、会いにはこねぇから。
「……手塚。もう寝てる頃かな」
 俺に聞こえるように、呟く。罠だと解かっていても。その名前に、思わず反応しちまう。それに気づいたのか、不二が口元を歪めた。
「気になるなら、来なければいいだろ」
 その顔を見たくなくて。俺は呟くと、その胸に顔を埋めた。ムカつくなら、突き放すのが正しいのだろうが。悔しいが、俺にはそれが出来ない。
 こいつだって、充分矛盾している。手塚のことが好きなくせに、そいつとの約束を蹴ってまで俺の誘いに乗ることがある。そして、自分で乗ったくせに、始めはいつも不機嫌でいやがる。
「気になるけど。心配は要らないから」
 遠く呟くと、今度は不二が唇を重ねてきた。そのまま、俺はやつに組み敷かれるようにして体を倒された。
「どういう意味だ?」
「心配なのは、君の方だってこと。なんたって、君は弱いからね」
 クスクスと耳元で微笑う。
 弱くなんかねぇ。心の中で呟く。声に出来ないのは、そう言い切る自信がねぇから。今の現状を見れば、何を言っても無駄だろう。だが。こんな姿…。
「おめぇにしか見せてねぇんだよ」
「……ん?」
「何でもねぇよ。やるんだろ?とっとと始めやがれ」
 心を覗き込もうとする視線から逃れるために。俺は不二を抱き寄せると、キスをした。解かった、とでも言うように、不二が深く進入してくる。
 こうなることを、望んでいたはずなのに。ここまで来るといつも後悔をする。…いや、後悔というのとは少し違う。ただ、胸の奥がちりちりと痛んできやがるだけだ。
「………っ」
 …どうでもいい。そんなことは。
 沸き起こってくる熱に、俺は身を委ねるように眼を閉じた。





タイトルが……浮かばんι
不二塚前提でゴメンナサイ。
不二は断る事をしないだけなんですけどね。
もしかして、かなり嫌なやつになってます?
優しさですよ、優しさι(←いい訳っぽい)
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