御褒美


「あふっ…」
 僕の肩に頬を寄せながら、彼は大きな欠伸をした。コート上の凛とした姿からは想像できないそれに、思わず苦笑する。
「笑ってんじゃねぇよ」
「ごめんごめん」
 少し声を膨らす。だけど、その眼は微笑っている。そんな君が、余りにも可愛いから。
「跡部」
 彼の名を呼ぶと、その額に唇を落とした。彼がまた、欠伸をする。
「口くらい隠しなよ」
「いいだろ。てめぇしかいねぇんだしよ」
 欠伸混じりに言うと、彼はそのままずるずると僕の膝の上に寝転がった。身体の位置を直し、僕を見上げる。
「何笑ってやがんだよ。気持ち悪ぃ」
「こんなだらだらした跡部を見れるのは僕だけなんだろうな、って思うとさ。嬉しくて」
「仕方ねぇだろ。疲れてんだよ」
 本当に眠いのだろう。会話がズレてる。本当なら、うるせぇよ、とかなんとか言いながら、彼は顔を真っ赤にするはずだったのに。
 まぁいいか。そんな彼を見れるのも、きっと僕だけだろうし。それに。
「可愛いね、跡部は」
 彼の額にかかる髪を掻き揚げ、微笑ってみせる。
「……うるせぇよ」
 怒ったように呟くと、彼は僕の手を払い、そっぽを向いてしまった。
 でも。ほら、その耳はもう真っ赤。また、笑いが零れる。顔を見れないのは残念だけど。照れてしまっている可愛い彼を見ることが出来たから、今日はそれでよしとしよう。余りしつこいと、本当に怒ってしまうしね。
「はぁ」
 悦に浸っている僕を、現実に引き戻す溜息。彼にしては珍しいそれに、僕の笑いは止まった。
「どうしたの?」
「何だかなっ」
 勢いをつけ、起き上がる。彼は伸びをすると、僕の膝に向き合うようにして座った。僕の首に腕を回し、じっと見つめる。その眼が、せがんでいるように見えたから。僕は彼を抱き寄せると、キスをした。そのまま、彼が僕の肩にもたれる。
「つまんねぇんだよ、毎日。不二といるとき以外は」
 呟いて、ギュッと腕に力を込める。
「それは僕も同じだよ」
 呟きで返すと、僕も彼の背に回している腕に力を込めた。右手で、彼の髪を梳く。
 暫くそうしていると、また、彼の欠伸が聞こえた。苦笑し、身体を離す。
「もう寝るかい?」
「……眠くなんかねぇよ」
「嘘。眼、真っ赤だよ。それにさっきから欠伸ばっかりだし。明日朝練を見に行くんでしょ?早く寝た方が良いんじゃない?」
 意外と面倒見の良い彼は、部活を引退した後も後輩達の指導に当たっている。ただ教えるというだけでなく、練習メニューも考えてあげている。それに加えて自分の練習もしているのだから、寧ろ、自分が部員だったときよりも今のほうが忙しいらしい。
「眠くねぇつってんだろぉ…」
 言いながら、欠伸してる。そんなんじゃ、説得力は零だよ。
「君が眠るまでついててあげるから。だから、ね?寝よう」
 彼を抱きかかえ、立ち上がる。暴れられるかとも思ったけれど、それよりも僕が彼を抱きかかえることが出来たという事実に驚いているようだった。そんな彼の顔に苦笑する。
「ほら、手、離して」
 彼をベッドに横たえる。けど、彼は僕の首に腕を回したままで離そうとはしてくれなかった。仕方ないな。溜息を吐き、そのまま彼の隣に横になる。
「なぁ、不二」
 首から手を離すと、彼は僕の手を取って、そこに自分の頭を乗せた。横を向き、赤い眼で僕をじっと見つめる。
「なぁに?跡部」
 僕も横を向いた。今にも閉じてしまいそうな彼の眼を、じっと見つめる。
「荷物まとめて、俺様ん所に来いよ」
「……は?」
「だから…ずっと俺様ん所に居ろっつってんだよ」
 淋しいんだよ。不二がいねぇと。
 消え入りそうな声で彼が呟く。横見ると、その頬は真っ赤になっていた。さっき失敗した作戦が、こんな所で見れるなんて思わなかったから。僕は思わず笑ってしまった。
「わっ、らうんじゃねぇよ」
「ごめん」
 呟いて、彼の額にキスをする。ふふ、と微笑って見せると、彼はさらに顔を赤くした。
「君の誘いは魅力的だけどね。それには乗れないなぁ」
 腕を折り、彼を抱き寄せる。何でだよ。くぐもった彼の声が、身体に響いた。
「これはね、御褒美なの。跡部が毎日学校で頑張ってる御褒美。だから、それが当たり前になっちゃったら意味ないでしょ?」
 一緒に居ること以上の御褒美を見つけられないから。それが見つかるまでは。それ以上のものを与えられるようになるまでは。
「理解った?」
「……理解んねぇ。理解りたくもねぇ。御褒美つったって、どうせ俺様が眼ぇ瞑ったら終わっちまうんだろ?そんなもんのどこが御褒美だってんだよ」
 淋しいんだ。側に居て欲しいんだ。
 顔を上げて僕を見つめる。その眼は欠伸をしたとか眠いからとかそういうのではなく、濡れていた。その涙に唇を寄せる。
「終わらないよ。明日、君が学校に行くまでずっと一緒に居るから」
「……本当か?」
「うん。ここのとこ、跡部は頑張ってるみたいだからね。その御褒美」
 だから、安心してお休み。
 囁いて、唇に触れるだけのキスをする。無言で頷くと、彼はピッタリと身体をくっつけるように僕に寄り添った。彼を抱き寄せ、その髪を梳くようにして撫でる。すると、あっという間に彼は穏やかな寝息を立てはじめた。その顔に、自然と笑みが零れる。
「でも、いいのかな。僕は大して頑張ってないのに、こんな御褒美貰っちゃって」
 呟いて彼の額にキスをすると、僕も静かに眼を閉じた。





不二跡って、タイトル歌ばっか!あら吃驚。
つぅわけで、SURFACE『御褒美』です。
♪あんまいあんまいこの時間はぁ〜 きっと眼を瞑った瞬間終わっちゃうんでしょ〜
 だからこの際一切合切 荷物まとめてぇ 転がりこんじゃってこな〜い?
ね。甘いね。(最近洗脳されているので。不二跡は甘く行こうかと…)
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