注目の的


「……氷帝の、跡部だ」
「なんでアイツがこんな所に?」
「馬鹿っ、しらねぇのか?跡部はな、不二の――」

 すれ違う奴等が振り返り、俺の噂をする。口には出さなくとも、ジロジロと見ていく。だが気分は決して悪くはねぇ。注目されることは嫌いじゃねぇ。
 だが。
「ちっ。まだかよ」
 呟いて腕を組むと、俺は煉瓦造りの校門に寄りかかった。
 待たされるのは、嫌いだ。
「お待たせ、跡部」
「………遅ぇんだよ、てめぇは」
 溜息を吐く為に吸い込んだ空気に、声を乗せて吐き出す。
 俺の向かいに並んだ奴は、ゴメン、と両手を申し訳なさそうな顔の前で合わせた。俺がそれについて反応をする前に、いつもの笑顔に戻り、手を繋いでくる。
 反省してねぇな。そうは思いながらも、笑顔に顔が赤くなりやがるから。俺は何も言えずに、ただその手を握り返した。
「注目、されてるね」
「てめぇが遅ぇからだろ」
「別に、それが悪いなんて言ってないよ。寧ろ、注目されるために、君に会いたいのを我慢して、遅れてきてるんだしね」
「あーん?」
「ふふ」
 眉を寄せる俺に、不二は含んだように微笑った。手を強く握り、体を寄せてくる。瞬間、周りの空気が変わった。気のせいなんかじゃなく、俺たちに向けられる視線の数が多くなる。
「ねぇ。分かる?皆、僕を羨んだり妬んだりしてるんだ。君を、独り占めしてるから」
 さっと周りの視線を確認する不二に倣うように、俺も視線を確認する。
「折角跡部を手に入れたんだから、やっぱり自慢しなくちゃね」
 俺の肩に頬を寄せて満足げに言う不二に、俺は微笑った。何?と不二が見上げる。
「気づいてねぇのか?感じる視線の半数は、俺に向けられたもんだ」
「そりゃ、跡部は綺麗だからね。見惚れる気持ちも分かるよ」
「そうじゃねぇよ」
 ニヤリ、と微笑ってみせると、見上げる不二の額に唇を落とした。途端、俺に向けられていた視線が、明らかな敵意を持つ。
「……何?」
「自慢してるのはてめぇだけじゃねぇってことだよ」
 自分でしたことに、顔が赤くなったが。ここで引くわけにもいかねぇから。そういうことだよ、と呟くと、俺は周りの奴等に見せつけるように、自分から不二に体を寄せた。





365題ネタ。
跡部だけがモテモテにならないのは、アタシが不二スキーだからです。
半数は不二を妬み、半数は跡部を妬む。不二はその事実に気づいてるんだかいないんだか。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送